1 銀行小説
池井戸潤さんの銀行を舞台にした小説です。
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池井戸さんの銀行小説といえば半沢直樹シリーズ。
本書の主人公も半沢みたいです。
銀行の倫理を信条に、私利私欲の輩と対決する。
それに爆破犯がからんでくる。
そんな設定からおもしろい小説でした。
社内対決ものと推理ものが一つになった。
こういう説明が一番わかりやすいと思います。
2 ○イエー
半沢直樹シリーズでも、実際にあった経済事件を題材に書いていました。
本書も同じで、一風堂という流通大手が出てきますが、どうみても○イエーです。
たたき上げでワンマンをトップにいだく点も同じ。
薄利多売、入手した不動産を売却しないというところも同じです。
それで、拡大路線が行き詰まり、経営不振になっているという設定でした。
一風堂の株価は低空飛行。
メインバンクの白水銀行は、これ以上の過剰融資はできなくなっています
そこに一風堂にうらみをいだくものが店舗爆破を予告。
実際に爆破します。
一風堂の株価は暴落。
白水銀行に追加融資を求めます。
審査部の主人公はこれに否定的。
貸した金が返ってこない可能性大だからです。
しかし、倒産させればこれまでの融資がパー。
銀行も大きな痛手を負います。
それは避けようと追加融資を企む銀行員。
かくして、社内対立と爆破犯追跡が同時進行で進んでいきます。
3 犯人と動機
爆破犯の手掛かりはほとんどありませんでした。
そこで、主人公は動機から推理します。
一風堂は強引な手法で拡大してきた企業。
成長の過程で多くうらみをいだかれたにちがいありません。
調べてみると出店反対運動をしていた商店主が自殺していたことがわかりました。
そこから犯人を捜し出していきます。
この商店主の身内が容疑者となりました。
と進むのですが、ここであげられた容疑者の人物像がいかにもいかにもで、なんか薄っぺらいなあと感じながら読みました。
まあ経済小説だから、犯人の内面はあんまり掘り下げないのかなあと思ってたんです。
しかし、さすが池井戸。
これはおとりで真犯人は別にいるという展開に。
このどんでん返しは見事でしたね。
しかしまあ、最初の容疑者周辺の人物が、ほんと救いのない人物ばかりです。
読んでいてちょっとやになってきました。
身近な人って、ほんとに身近なのかなあ。
そんなことまで考えてしまいました。
さて、怨恨の線で犯人探査が進んでいたのですが、真の動機はちがっていました。
犯人の目的は金だったのです。
株価暴落を起こして、信用取引によって利益を得る。
いかにも経済小説らしい説明でした。
4 解任動議と頭取決裁
一風堂内ではワンマン会長を解任しようと動きが起きますが、会長はの巻き返しで失敗します。
一方、白水銀行でも追加融資決定となりかけますが、頭取決裁にて融資は断念となり、主人公は一息つきます。
この頭取、決して主人公よりではありませんでした。
おそらく、反主人公派に与していて追加融資を進める人物と思われていたんです。
その人が正反対の決断をしました。
本書では、この頭取の考えが詳しく説明されませんでしたので、なぜそうなったのかはなぞのまま残ります。
銀行員としての矜持があったのかもしれません。
さて一風堂ですが、犯人逮捕により株価は持ち直したのですが、役員も替わらず融資も受けられずと経営再建が難しい状況が続きます。
そんな中、追加融資に熱心だった銀行員が一風堂から不当にコンサル料を受け取っていたことが判明しました。
これが明らかになれば、銀行側の融資派も一風堂の現経営陣もかなりの打撃を受けます。
この材料をもって主人公が査問委員会に臨む、というところで小説は終わっています。
最後の最後までは書かない、という形ですが十分満足いく結末でした。
5 総評
本小説は、私利私欲で動く人間の心理がよく描けていると思いました。
自分の生い立ちや社会への不適合など、どうしてこういう人物になったかを詳しく描写しています。
なるほどなあと思う一方、そこまで描かれても犯人らに共感が一切わきませんでした。
こういうところ、大衆小説っぽくておもしろいところです。
また、株価にまつわる企業や銀行の動きも興味深かったです。
資本主義の経済ってこういう仕組みになっているんだなあ。
などと、エンターテインメント小説に教わるばかりです。
さて本小説ですが、半沢直樹シリーズのプロトタイプのようなものでした。
同シリーズのファンの方はお読みになるといいでしょう。
絶対、楽しめると思いますから。