1 本書の概要
経済アナリスト森永卓郎さんの社会批評本です。
社会批評本と書いてみたものの、人によって本書のとらえ方は分かれるでしょう。
片方の端に「陰謀論」があり、もう一方の端に「ルポルタージュ」がある。
そんな感じです。
刺激的な内容の本でした。
森永さんは耳目をひきつける新奇ないい方をします。
年収300万円時代もそうですし。
そういう方ですが、知的で根拠のないことはいわない方だと思ってました。
しかし、本書の内容は、思いっきり振れてます。
2 「ジャニーズ」と功利行動
1つ目の話題は、ジャニー喜多川問題。
本質は、年少者への虐待なんですけど、森永さんの切り口はそこにありません。
森永さんが問題にしているのは、ジャニー喜多川さんじゃなくてマスコミです。
公然の秘密だったのに、なぜ隠蔽されてきたか?
これを問題としています。
結論からいうと、保身ですね。
自分の経済的な立場が損なわれる。
自分の今の地位を守る。
こういう態度に終始したため、だれも報道しなかった。
これが真実だそうです。
どこが社会の木鐸だ。
とは思いますが、しょせん芸能の話とたかをくくっていたのかもしれません。
まあB級C級雑誌には書いてあったような気がしますが、テレビ局や全国紙が報道しなかったのは事実。
視聴率を気にする必要がないNHKさえも報道しなかった。
こういう集団性が秘密を維持し、被害者の救済を妨げたといっています。
いい指摘です。
社会心理学の研究対象だと思いますね。
これを自己反省しないで、社会の木鐸を気取ってもしらけます。
観客席で安全に保護されている時だけ、正義をふりかざす。
日本に革命が起きなかったわけです。
とはいえ、この話は「まくら」なわけです。
森永さんは、このような方法で隠蔽されている真実は他にもある。
より深刻なものが隠されている。
と暗に示して書き進めます。
3 ザイム真理教
次は、前著書の話にふれます。
ザイム真理教です。
ザイム真理教とは、どんな真理を信じているのか。
国家の歳出と歳入を均衡化する。
これです。
まあ戦前の財政運営の反省を踏まえての真理だとは思うのですよ。
最強の通貨を刷れば金はわいてくる。
なんて考えちゃいないんですよ。
でも、あまりに行き過ぎだ。
不況下に増税してまで均衡化を目指すのはあまりじゃないか。
そういいます。
そこまでしてこの「真理」を推し進める動機は何か。
森永さんはまた「功利主義」を示します。
増税を成功させた官僚は出世する。
減税を止められなかった官僚は左遷となる。
個人の損得が「真理」を維持する。
そして、財務省の批判をすると、本の出版が困難になる、報道番組によばれなくなる、会社は税務調査を受ける、という「制裁」を示します。
そして真理は隠蔽される。
森永さんは、真実を伝えることの難しさを強調していきます。
4 日航機墜落事故
本書のハイライトは、日航機墜落事故です。
日航機墜落事故は隔壁の破損が原因とされています。
森永さんはいくつかの資料を引きながら、これを否定します。
これが真実だといいます。
そしてこの事実を隠蔽したためにアメリカに借りができ、アメリカのいうがままになってしまった。
それが失われた30年という不況の原因だ。
そう主張します。
いやまあ、どうでしょうね。
日本は主権国家ですけど、アメリカに敗戦した結果、軍事力が極端に制限されて、国際的意見はアメリカ追従を余儀なくされています。
なので、この秘密だけで弱みを握られたってわけでもない気がしますが。
プラザ合意についていえば、一つはレーガノミクスの限界、もう一つはペレストロイカによるソ連の弱体化によって日本の戦略的価値の低下、これらが重なったからというのが普通の解釈だと思います。
そして、中曽根政権というタカ派であると同時に国内政治基盤の弱さを国際協調で補おうとする政府がいたからだと思うのですよ。
慎重に森永さんは議論を進めてきたのですが、ここは説得力が弱かったなあ。
多分、プラザ合意の時代を同時代として生きた人は森永さんに同意しないと思います。
ただですね、アメリカは関税を用いずに日本製品の輸入を減らしたかっただけなので、その後日本にバブル経済が生じ、長期不況に入ることまでは想定していなかったと思います。
というか日本の不況なんかしったこっちゃないって気持ちだったでしょうね。
5 総評
★★★★☆
4つです。
おもしろい本でした。
こういう「肘掛け椅子の探偵」的な本は好きなんです。
多様な解釈の可能性を探るみたいな本は、です。
ただ、日航機の話はどうかなあ。
いや撃墜説がまちがいといってるわけではありません。
それは真実でも間違いでもかまいません。
それが日米関係に決定的な影響を与えているというのが、「そんなわけないやろ」と思ってるのですよ。
そんなことをしなくても、アメリカは日本に影響力を行使している。
そう思いますので。
とはいえ、おもしろかったし、ものの見方について、社会における身の処し方について考えさせられた本でした。
森永さん、病気大変でしょうけど、長生きしていろんなお話を聞かせてください。
新著を楽しみにまってます。
