1 本作の概要
池井戸潤さんの銀行ものです。
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本作は復讐劇です。
営業3課の次長でエリートコースだった黒部は、融資の焦げ付きの責任を取らされ人事部付きに左遷されます。
個人的な恨みもありますが、銀行で人を落とし入れ私利私欲をむさぼるやつを許さない。
そういう気持ちで仕事に取り組んでいます。
似たような設定の話はありますが、本作は復讐が前面に出ているところが特徴です。
印象に残ったことは2点ありました。
2 人事部付き
主人公黒部は、500億円の融資焦げ付きで左遷されます。
これは、常務に昇進にした悪徳上司が仕組んだものです。
スケープゴートにされたのですね。
左遷された先が人事部付きです。
人事部付きというのは保留ということです。
つまり、どこかに配置するまで一時的にとどめておくポジションということです。
そこでの仕事は、社内名簿のチェック。
これも特に仕事があるわけではないので、とりあえず与えられた仕事という感じです。
主人公は仕方なくその仕事をしていきます。
まあ、割り切ってこれで給料もらえると考えれば割のいい仕事のような気もしますが、そうは考えないのが池井戸主人公です。
これで満足していたら小説にはならないのですが。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり。
人事部長が行内の疑惑についての極秘調査を依頼します。
表面的には名簿の校正をしながら、裏で疑惑調査をすすめる。
そういう展開で進みます。
しかし、人事部付きというのは実際にもあるのでしょうが、本作のような設定がなければつらいですね。
要はやめろっていう圧力ですからね。
これを耐えても、さらなる異動先はさらにひどいところでしょうから。
こういう走り続けないといけないような働き方って絶望しかないですね。
やっぱり自分が好きでできることを、少なくとも我慢しなくとも続けられる仕事を選ぶことが大切なんでしょうね。
3 わらにすがる人の心理
本作に倒産した会社社長が描かれています。
倒産した社長なんてたくさんいるのでしょうけど、この社長転落する人の心理の典型のような感じがして、印象に残りました。
2代目で見込みがあまくて倒産したんですが、なかなか自分の責任と認めない人なんです。
銀行が融資しないからいけないんだ。
そういう考えです。
いいところは、会社をしめる際になけなしの金で退職金を従業員に渡したことかな。
たぶん規程より少ないでしょうけど。
それで、街金から金を借りてNPOに助けを求めるんです。
でも、これがマッチポンプ。
街金とNPOが裏でつながってるんですね。
というか同じ人が運営しているんです。
冷静に考えればわかることなんですが、八方ふさがりの中で自分が信じたいことにすがってNPOに希望を見いだしているんです。
結局、NPOの錬金術、つまりはこの社長の資産を安く買いたたくことなんですけど、は阻止されます。
被害がでるのがこの社長だけじゃないので。
ですが、資産の売買に一縷の望みをかけていたこの社長は泣き崩れるわけです。
人間、追い込まれるとこうなるわけですね。
もう自己破産するしかないと思うのですが。
銀行員をしていると、こういう方を多く見るのでしょうか。
人の振り見て我が振り直したくなります。
4 総評
復讐は完遂し、大団円を迎えます。
「仇敵」など池上さんの他の小説に似ていますが、本作は他の作品より薄味な感じがしました。
主人公の魅力が足りない感じです。
独身でまだ銀行内に職がある黒部よりも、他行で庶務行員をしている家族持ちの恋窪の方が魅力的でした。
最後に出世する黒部と庶務行員として今後も働く恋窪では、後者に共感がもてます。
まあ、わたしの好みの問題ではありますが。
このような小説を経て「半沢直樹」のような主人公にいきつくのかなあ。
そういう点では、初期作として読むことで、池井戸作品の系譜が俯瞰できるようになります。
とはいうものの、上質でテンポのいいエンターテインメント小説ですから、未読の方に自信をもって薦めます。
単体小説としてもおもしろいですよ。