1 本作の概要
指輪物語の外伝アニメ映画です。
こちらが原作。
原作である「追補編」というのは、作者本人が指輪物語の設定などを書いたもので、小説というよりは、設定資料集みたいな本です。
そして、これがこりにこっていて、これを読むだけでも楽しいというものになってます。
とはいえ、あくまで資料集、指輪物語本編を読んで「もっとこの世界に浸りたい」という人が読む本です。
一般向けではありません。
指輪物語にはいくつかの国、といっても近代的な意味の国とはちがいますが、が出てきます。
本作の舞台、ローハンもその一つです。
さて、本作なんですが「追補編」の中の「エオル王家」の年代記に出てくる槌手王ヘルムの話なんです。
だいたい5ページぐらいの短い記述を膨らませて2時間ぐらいの話をつくっています。
ページが少ないのは年代記なので当たり前なんですが、それにしてもなぜこの部分を取り上げようとしたのか。
ベレリアンドの話とかヌメノールの話とかもっと指輪物語らしいエピソードがいくらでもあるのに。
さてお話の内容に入りましょう。
2 物語の概要
主人公はヘラという王女様で、馬に乗って草原を駆け回るという戦士のような人物です。
ですが、この主人公原作ではヘルムの娘としか記述がなく、事跡も何も書かれていません。
性格も容姿も何も書いてありません。馬に乗れたかも不明。
つまりこの主人公は、二次創作のようなものです。
それであらすじなんですが、
ヘルム王の部下で忠誠心の低いフレカという人物がいました。
フレカは息子の嫁に娘をくれとヘルム王に話します。
断りたいヘルム王は、二人で解決しようといいます。
その解決法が殴り合い。
それでヘルム王が殴り殺しちゃうと。
当然のごとく復讐心に燃えた息子が4年後、褐色人を率いて反乱を起こします。
ローハンは蹂躙され、ヘルム王一行は角笛城に立てこもります。
この角笛城、作中ではなぜかホーンバーグと呼ばれていましたが、指輪物語にも合戦場として出てきますので、マニアにはうけるでしょうね。
ちなみに作者のトールキンは指輪物語を翻訳する時には、その国の言葉に直すようにとしていたので角笛城の方がいいような気はしますけども。
閑話休題、それでヘルム王は奮闘むなしく角笛城で戦死します。
ローハン軍は限りなく負けそうになります。
そして最後の決戦。
間一髪、援軍を得たローハン軍がかろうじて勝利を収めました。
めでたし、めでたし。
こんな話でした。
つまりは内紛、内乱の話なんですね。
指輪物語のように世界の命運とか、善悪の葛藤とかそういうのはありません。
途中からは意地の張り合いみたいになっていて、「阿部一族」か、というつっこみが心のどこかで。
このあらすじ自体は、「追補編」にあるもので、そのまんまではあるんです。
あるんですが、指輪物語の中でそれほど重要なお話ではありません。
3 ヘルム王という人物
頑健で慈悲深く頑固な人です。
まあ驚くべきはその体力で、先に部下を殴り殺したことは書きましたが、合戦でも素手で敵兵を殴り倒す殴り倒す、果てにはオークやウルクハイまで殴って倒してます。
超人ですね。
槌手王というくらいですので、武器はハンマーです。
ですが、ハンマーなんかいらないくらいの打撃力でした。
で、判断力なんですが、ここは疑問符だらけだなあ。
まずフレカと殴り合わなくても話し合えばよかったでしょうにと思いますし、反乱軍との決戦も敵の作戦にそのままのって向かっちゃうし。
迎え撃つのが横綱相撲といえば、かっこはいいんですけど。
もう湊川の戦いくらいやる前から負け戦ですからね。
楠木正成的に止める人も居たんですけど、考えを変えるわけはなく。
兵隊がかわいそうです。
つまりですね、なんというかTHE脳筋の人なんです。
人望はあったにせよ、もう少し周囲の意見に耳を傾けてればなあと思います。
そういうわけで、どこか自業自得感がありまして、あんまりローハン側に同情できませんでした。
4 ファンタジーとしてみると
多少はファンタジー要素があります。
大鷲とかオークとかじゅうとか水中の監視者とか、そういう生き物出てきましたし。
ちなみにですが、指輪物語の大鷲はマイアールという神様の一種です。
あとは王様が超人的なパワーを持っていることくらいがファンタジー要素かなあ。
総じて中世の合戦物語みたいな感じで、ファンタジーぽくはありません。
そもそもローハンの人たちは、普通の人間なんです。
エダインと呼ばれる人間じゃなくてね。
(指輪物語の中心種族であるエルフと人間は、種族として全部同じではありません。エルフは神の求めに応じたエルダールとそれ以外、人間はエルダールに協力したエダインとそれ以外で大きく属性が異なります)
そのため、人間のお話という感じが強くなっています。
サルマンという指輪物語の登場人物がちょい役で出てきたりするので関連性は持たせてますけど、指輪物語っぽさは少なめでした。
なので、独立したお話、よくいえば指輪物語を知らなくても楽しめるお話になってます。
5 総評
★★★☆☆
3つですね。
いろんな意味で、指輪物語ファン向けというか、そんな感じです。
先に指輪物語の知らなくても楽しめるとは書きましたが、それはホントにそうなんですけど、指輪物語と離してこのお話を評価すると、ありきたりな話で終わります。
面子と意地と復讐。
そして相互不理解の悲劇。
本作の事件は王様の判断ミスがすべて引き起こしたといえます。
そして、周囲の人のいいみなさんがその尻ぬぐいを一生懸命しています。
してるんですが、そりゃそうなるでしょみたいな展開ばかりで。
かわいそうなんですけど、王様がなあ、という感じが終始頭を離れず、寄り添う気持ちが持てずじまいという…。
まあ、わたしは指輪物語好きなので、こういうスピンオフは歓迎なんですけど、ファンじゃない方が物語だけで評価したらどうなるか。
できれば、もっとおもしろいエピソードが残っているので、そちらを題材にしていただけるといいかなあ。