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【ネタバレ批評】大谷アキラ、夏原武、水野光博「正直不動産」

1 本作の概要

不動産業界の内面を描いたマンガです。

ノウハウマンガといいますか業界マンガといいますか、知らない世界を人間ドラマとともに知っていく、そういうジャンルのマンガです。

美味しんぼ」とかその辺りから一般的になってきたのかなあ。

「ギャラリー・フェイク」もそうだし。

とはいえ、どの業界でもエンターテインメントになるわけではありません。

ありませんが、不動産業界はまちがいなくドラマになる業界です。

2 主人公の設定

おそらくは典型的なやり手セールスマンです。

「千三つ」を体現した人物で、営業成績を上げることがすべて。

ちなみに「千三つ」とは、千のうち本当は三つだけ、という商売口を表した言葉です。

せんだみつおさんの芸名はここからとったのだとか。

そうだったのですが、お社を壊した祟りでウソがつけなくなってしまいます。

不動産営業でウソをつけないのは致命的。

さて、主人公はどうするか。

というお話です。

まあ、ウソをつかない誠実な不動産屋さんもいるでしょうから、ウソをついても売るというこれまでの営業スタイルが使えなくなったのは致命的、ぐらいにしておくのがよいでしょうね。

物件の長所・短所を話すことで契約を逃すこともしばしば、会社の売り上げにも悪影響を与えつつ奮闘する主人公、その中で不動産業界の仕組みが読者に伝えていくというスタイルのマンガです。

人気になるのもわかりますね。

3 不動産業の「ウソ」

不動産業はどうやって儲けているか。

仲介手数料で儲けています。

アパート借りたことある人はわかると思いますが、家賃の1ヶ月分を仲介手数料として取られることが多いです。

実はこれ、取り過ぎなんですね。

法律では半月分なのだとか。

しかし、契約してしまえば有効になります。

不動産屋さんはこういうことは話しません。

お分かりかと思いますが、不動産屋さんはウソをつかないかもしれませんが、真実を伝えないということはします。

つまりは丸め込むってわけです。

手数料についていえば、借り手だけじゃなく貸し手からももらったりします。

両手取りなどというのだそうですが。

敷金、礼金、ゼロ!

に加えて仲介手数料もなし、なんて物件がありますが、大家さんからはもらってたりするわけで、ただ働きをしているわけではないようです。

サブ・リースやリバース・モーケージなど、様々な不動産の商品が紹介されていますが、その種明かしを見ると「うんざり」しますね。

まあ、営業は「ゴミ(みたいな商品)を売ったら一流」という人もいますから、不動産に限らずセールスマンはどこもそうなんでしょうけど。

伝えない自由を存分に使っているのです。

4 仕事の価値

主人公は不動産営業という自分の仕事をどういうふうに価値づけているか。

端的に金儲けです。

いかにして自分の収入を上げるか。

それのみを考えています。

そのために客に不利になってもいい。

そこまで徹底しています。

これは主人公だけの考えではありません。

主人公の上司、同僚、ライバル会社まですべてそうです。

しかし、主人公はウソをつけなくなりました。

作中の表現では、真実を黙っていられなくなったという状態です。

そのため、営業成績は下降の一途。

収入も激減。

いつか高級車とタワーマンションを手に入れることを夢見て奮闘しています。

このような状況で営業する中、主人公は少しずつ変わってきます。

顧客を欺く営業への疑問、顧客からの感謝に安らぐ心。

道徳の話のようにコロっと変わりはしないのですが、徐々に変容していきます。

これに大きな役割を果たしているのが部下です。

主人公が教育係をしているのですが、信念がカスタマーファースト。

自分が不利になる場面でも顧客のために尽くします。

当然、部下だけで解決できるわけもなく、主人公が手を貸すことになり、金だけではない経験を重ねることになるのでした。

仁術算術対立は古典的ですが、ほぼ100%算術業界でこれをするというところに、おもしろさがあると思います。

5 総評

★★★★

4つです。

登場人物が適度に人間臭くて魅力的ですし、あまり知らない不動産の世界も垣間見えておもしろいですね。

ただ長期連載だとダレるかもしれません。

業界の目新しさで引き付けているところが大きいので。

おそらくは、主人公の成長ストーリーとなるでしょうけど。

不動産に興味がある人には激推し。

そうでもない方には推しって感じです。

これ読むと賃貸借りるのめちゃくちゃ神経質になりそうです。