1 はじめに
ひょんなことから懐かしい小説を読んでいます。
「氷菓」
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米澤穂信さんのアニメにもなった小説です。
再読して初読では気にならなかったことが気になりました。
えるのセリフのようですね。
気になったのは、奉太郎の性格です。
2 節約主義
「やらなくていいことはやらない。やらなきゃいけないことは手短に」
これが主人公、折木奉太郎のモットーです。
初読の時は、何でも解決するホームズを活発に動かしては物語があっという間に終わってしまうので、そのための設定だろうぐらいにしか思ってませんでした。
奉太郎を動かす動機が必要になったり、動かすために他の登場人物が活躍したりと、そういうことで物語が立体的になると。
そう思っていたのです。
変わった性格による個性化ということもあるのかと思いました。
思春期というのは、他人との差別化が必要で、こういう自然じゃない性格もあるのかと。
しかし、一歩引いて考えれば、こういう性格を生得的に獲得しているはずはないんです。
省エネ主義といっていますが、そこには暗い情熱があるように感じます。
3 物語の進展
とはいっても普通の高校生活が舞台ですので、ミステリーといっても日常の範囲です。
人が死んだり大金が盗まれたりということは起きません。
奉太郎は名探偵、ホームズ役です。
名前もホウですし。
各巻ごとにちょっとした謎が解決されて次巻に続くといった感じのシリーズです。
ワトソン役が千反田える、清楚で好奇心が強いお嬢様です。
シリーズ全体の進行としては、この二人のラブ・ストーリーなのかと思ってました。
つまり恋の進展がシリーズの展開で、おそらくは高校を卒業する時に決着がつくと。
それで完結をするという、わかりやすい構成なのかと思っていたんです。
しかし1巻を読み直して、どうもそうじゃないような気がしてきたのです。
4 主人公の成長
この物語は、主人公奉太郎の成長の話なのではないか。
そう思えてきました。
つまりですね。
省エネ主義という普通の発育したらあり得ない性格をした主人公がいる。
おそらくは、そういう主義を獲得した過去の事件があり、それがトラウマとなって現在のような主義を標榜するに至った。
それがほんとうに性格由来の主義ではないことは、実利的ではないことにたびたび首をつっこむことからもわかる。
要は、省エネ主義とは、世をすねてみせている態度なのである。
そうやって自分の自我を守ると同時に、この偽悪的実利主義から救出してくれる誰かを待っている。
こういう子ども的な他力主義と韜晦による自己憐憫が混じった性格というか態度から成長していく。
こういう物語なのではないかと思ったのです。
そうでなければ、有能ではあるけれど無愛想な奉太郎に、千反田他が関わるはずがないと思ったのです。
5 自己認識の幼さ
しかし、私の奉太郎の性格の解釈が妥当であったとすると、この主人公は幼いと思います。
冷淡な態度と内面の人恋しさ。
矛盾した同居を正当化する屁理屈。
まあ、この種の幼い態度というものが思春期の特徴であることは、承知の上ですけれどね。
高校生というか思春期というのは、そういう自己憐憫が好きなんです。
ある種、社会や他人への期待を完全に失っていないともいえます。
希望があるから他人を信頼するというわけで、すれっからしの大人にはなっていないのですね。
完結した際の大人になった奉太郎というのはどうなっているのでしょう。
読みたい気もするし、読みたくない気もしています。
もしそうなったら、過去の自分にどんな解釈を行うのでしょうか。
案外、恥ずかしがるだけかもしれませんけどね。
6 おわりに
再読して、もう一つ気づいたことがありました。
これ2000年が舞台の小説なんです。
ということは、2022年には、奉太郎もえるも38歳。
立派な大人です。
やっぱり気になりますね。
どんな大人になっているのか。
主に奉太郎が。
シリーズの刊行ペースが落ちているので、そこまで読むことができるのか心配です。
ぜひ読みたいとは思っているのですけれど。