1 ファンブックの超短編
これは、古典部シリーズの短編、とても短い小説です。
「米澤穂信と古典部」というファンブックの中に収められています。
![米澤穂信と古典部【電子書籍】[ 米澤 穂信 ] 米澤穂信と古典部【電子書籍】[ 米澤 穂信 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/rakutenkobo-ebooks/cabinet/8736/2000005588736.jpg?_ex=128x128)
- 価格: 1210 円
- 楽天で詳細を見る
内容は、奉太郎が中学時代に書いた読書感想文について、古典部員が感想を述べ合うというものです。
まあ、中学生らしい仕込みがある読書感想文をみんなで暴くという日常ミステリーの要素もあるのですが、どちらかというとそれは味付けですね。
奉太郎という斜に構えた人間がどんな読書感想文を書いたのか、ということが主題材のように感じました。
2 読書感想文
この書評も読書感想文というジャンルに入れられるのかもしれません。
読書感想文というジャンルは、あいまいなものです。
本を読んで思ったことを書けばいいとはいわれます。
ですが、内容の要約のみを書くものでもないですし、そもそも本を読んだことない人に向けて書くとすればある程度内容知らせなければなりませんし、いったいどうしたらいいのか。
そもそも学校でしか書かないものなんですが、読み手である学校の先生がこっちが読んでる本を読んでるとは限らないわけです。
私が中高で書いた読書感想文を国語の先生が読んでいたことはなかったと思います。
図書室になさそうな本ばかりというか、売れてなかった本ばかり取り上げていましたから。
さて、感想文で書くべきは感想なんですが、これも難しい。
感想だから何書いたってよさそうなものですが、やっぱり作品の主題とかそういうものにふれないといけない気がして、そうすると方向性が決められていて、やたら窮屈に感じます。
読書ってもって自由なもののように思うのです。
だから窮屈な作文という感じがしていました。
では優れた読書感想文とはどんなものなのでしょうか。
やっぱり元の作品を読んでなかったら、価値も何もがわからない気がするんです。
まあ、読書に限らず、世の中の文化的なものに対する批評・感想なんて全部そうなのかもしれないのですが。
とにかく、読書感想文の正解って何なのでしょうね。
3 奉太郎の感想文
その点、奉太郎の感想文は優しい。
何せ取り上げている作品が「山月記」と「さるかに合戦」。
ただし、芥川龍之介の「さるかに合戦」なのでこちらは特殊です。
まあ、「さるかに合戦」概要はこの作品でもふれているので、読まなくても大丈夫な感じです。
それで、奉太郎は作品の主題とは関係なしに、意外な視点から作品を解釈しおもしろがるという立場で読書感想文を書いています。
「山月記」は虎と李徴は別人の可能性、「さるかに合戦」はかにの計画殺人を逃れる可能性というという観点から書いています。
正直にいえば、この感想文自体はおもしろくありません。
だから何、レベルです。
奉太郎の仕込みは、まあやるやつはいるだろうねえって感じです。
若気の至りの感想文を恥ずかしがる奉太郎がおもしろいといえばおもしろい。
そんな感じの小説です。
また、読書感想文は何書いていいかわからないままでした。
この小説はそれを解決するものではないのですが。
4 総評
ファンブックの中にある小説ですから、キャラクターを愛でるもので古典部シリーズが好きな人には楽しめる掌編です。
しかも主に奉太郎をですね。
奉太郎は共感を呼ぶキャラクターではないですから、こういうのは貴重といえるかもしれません。
しかし、こだわりたいのは「読書感想文」です。
この書評も読書感想文だとすれば、どんな感想を書けばいいのか。
まあ、人間絶体絶命の境遇に陥ったらやうことは一つだなあとということかなあ。
最低最悪を想定して、ゴールを定めたら何を捨ててもそこに最短でたどりつくよう奮闘すべきである。
そうしないと、この小説の主人公のようになる。
こんなところでしょうか。
まあ、おそらく、古典部内で奉太郎の評価を上がりこそすれ下がることはなかったでしょう。
このエピソードを経験したとしてもね。