1 本書の概要
雨穴さんの建築ミステリーです。
雨穴さんといえば、本職webライター、でも多くの人にはユーチューバーとして知られている人でしょう。
その独特の世界観は、他の追随を許さないというか、誰もついて行っていないというか。
とにかく唯一無二の人です。
わたしは雨穴さんの、音楽動画が好きですね。
前作「変な家」は映画化され、ヒット作となりました。
まあその映画なんですが、雨穴さんがXで「○ミ」と投稿し、なにやら制作とうまくいってない感が広がってましたけど。
本作は、日常利用では不便または無意味な造りの建築物を考察し、隠された意図を探るというミステリーものです。
ホラー要素は少なめ。
前作で3軒だった考察対象の家が今回は11軒。
4倍弱。
増えすぎでしょ。
とまあ、ミステリというより雨穴さんの発想を楽しむというスタンスで読んでみることにしました。
2 宗教という動機
一見、相互に関係なさそうな11軒。
実はあるハウスメーカーとある宗教が関係していました。
というの本書最大のネタバレ。
なんですけど、今回は前作と謎の種類がちがうというか何というか。
前作は、機能だったんですよね。
つまり、一見無意味に見える構造に隠された意図があるという。
今回はそうじゃないんです。
なんていうかなあ。
建物の象徴的な意味を探るというか。
そういう感じなんです。
だから、使い道の分からない廊下の使い道がわかる。
そんな「なるほど」的解決がないんですよ。
心理的に圧迫される家とか、そういうのが出てくるんですけど、なんか前作とちがうというか。
それで、その背景として新興宗教です。
説得力を増すためかなあ。
確かに納得できない動機に対して「信仰」ですっていうのは説得力が増しますが。
これはこれで一つのミステリーとしてありでしょうけど、「変な家」の使い道に期待して読んだわたしには肩すかしでした。
3 宗教という隠れ蓑
動機の話が続くんですが、この新興宗教も企業利益の追求の隠れ蓑だったんですね。
経済が第一、心の問題は第二。
現代っぽいですよね。
そして使い捨てされる教祖が悲劇的であるというか。
そういう展開になってます。
雨穴さん、動機も二段重ねで凝ってます。
ただね。
雨穴さんの作品って、シンプルな謎の追求が魅力だったのですよ。
犯罪者心理の究明とかそういうのがないわけじゃないけど、メインじゃなかったんです。
そして、そこがよかったんです。
解決できない謎が残る場合もありました。
あえて読者や視聴者に謎として残す。
そういう展開も味があって余韻にひたれました。
今回は余韻が薄かったなあ。
名探偵栗原さんも薄味。
前作みたいな、こんな建物どう使うと思いますか、っていうクイズの方が楽しめたと思います。
4 総評
★★★☆☆
3つかな。
大作ではあるんですよ。
建物11軒ですし。
背景も凝っている。
11軒をつなげて一つの大きなストーリーにする。
そういう楽しみはありました。
ただ、変な家ってほど、変な家は出てこなかったんですよ。
余分な廊下がある。
導線が人目にふれる。
壁が動く。
トイレに行きにくい。
1回が倉庫。
宗教施設、等々。
とまあ、変といえば変なんですが「変な家」のように、特定の目的のために何度も使われる家ではないんですね。
一見不思議ではなく見えるが、よく見ると疑問がつきない。
そんな家はありませんでした。
強いてあげればトイレに行きにくい「ネズミ捕りの家」ぐらいですか。
それも何度も同じ目的で使えるというわけではないですから、ちょっとちがうのかもしれません。
壁が動くがそうかなあ。
でも、何に使われたのかははっきりしなかったし。
その代わり、本作は壮大なお話になってます。
大作です。
お話としての統一感もあるし、読み返せばここも布石になっているというところが見つかります。
でもぱやっぱり、どこかで肩すかしをくらった感はありました。
前作「変な家」を読んでいたために、こんなお話だろうという期待が強すぎたのかもしれません。
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