1 本書の概要
所有権の根拠について解説したエッセイ風の論文です。
そもそも、これが自分のものであるという根拠は何でしょうか。
なぜ、あれは誰かのものであり、自分のものではないといえるのでしょうか。
本書は、こういうことを考察しています。
所有権の由来ですね。
とはいえ、哲学的な小難しい本ではありません。
日常的な事例を取り上げ、分かりやすく説明しています。
本書で取り上げる根拠には、どのようなものがあったでしょうか。
2 所有権の根拠
所有権を主張する根拠は6つあるといいます。
早い者勝ち、占有、労働の報い、付属、自分の身体、家族です。
どういう根拠か想像できますか。
早い者勝ちは、一番早くそれを手に入れたということ。
例えば、釣ったサカナを想像するといいでしょう。
占有は他人を排除していること。
労働の対価として賃金をもらう。
持っているものに付いているもの、例えば地下資源。
自分の体は自分だけが動かしています。
家族というのは、もちろん遺産です。
分かりやすい気がします。
3 所有権のあいまいさ
とはいっても、そんなに明確でもないんですね。
例えば、アメリカの土地。
中西部は開墾した者の土地ということにしていました。
入植者を増やす理由で。
でも、そこにはネイティブ・アメリカンがいたわけです。
どういう裁定になるのか。
キリスト教徒で一番早いものというルールがあったとのこと。
おかしくね?
といっても決めたもん勝ちなところもありまして。
ことほど左様に個々の基準は分かりやすくないのです。
付属もそうです。
地下水を考えてみましょう。
自分の土地からくみ上げているのだから自分のでしょう。
汲みすぎて地盤沈下したら、誰が補償してくれるのか。
いやいや、沈下で建物が壊れたとしても、それは私の土地のことではない。
自然現象でしょうがないでしょう。
とはいかないわけですね。
実際こういう問題が起きたそうです。
本書の著者は法律家でして、実際の裁判例などを取り上げながら問題点を明らかにしていきます。
所有の権利もぎりぎりまで検討すると不明確になってくるのですね。
特におもしろかったのは自分の体についてです。
特殊なタンパク質を合成する体質の患者がいました。
医師は患者に知らせず、そのタンパク質の情報を活用して巨万の富を得ていました。
確かに治療の際の契約書には、その利用について記述があったそうです。
裁判で患者は勝てませんでした。
自分の体が自分のものでなくなる。
そういう例が実際にあるそうです。
遺伝子情報の権利なども難しさが出てくるでしょうね。
4 総評
★★★★☆
4つです。
おもしろいんですけど、まあ教養の範囲というか、うんちくとしてはいいかなという感じです。
実際上は、個々の国の法体系によって、誰が所有するかは決まるでしょう。
そういう意味で実用的な知識ではないのです。
まあ、資産を増やそうなんて血道をあげている方に、ふと資産のもともとの意味なんてものを考えさせるにはいいと思うのです。
なので、読んでむだになる本ではありません。
それと、これあくまで資本主義社会の話で、共産主義には関係ないような気がします。
とはいえ、21世紀の今日、ほんとの意味での共産主義国家なんて数えるほどしか残ってないですけどね。
最後にもう一つ感想を。
本書、訳書なので長いしかなり上手に翻訳してますが、それでも読みやすくはないです。
そのことは覚悟して読み始めるといいでしょう。