1 地方が舞台のミステリー
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金融物ではなくミステリー小説でした。
田舎に引っ越してきた小説家の主人公。
消防団に入れられるも連続放火事件に遭遇することになります。
そうこうするうちに不審死の事件も起こり…。
そこで作家の推理力で解決を〜というのが大筋です。
現代の農村問題を背景にして、リアリティある設定となっています。
おどろおどろしさはまったくないのですが、地方社会や宗教などが絡み合い、要素としては横溝ワールド。
令和風のさわやかさを残しつつ、という作品です。
2 消防団と新興宗教
主人公は父の故郷であるハヤブサ地区の自然にほれこんで移住します。
見ず知らずの土地で暮らし始めるやいなや、消防団ヘ入れられてしまうのでした。
この消防団という題材が、この小説の柱になっています。
現実の消防団は人手不足で、けっこうな年齢の方が所属している現状があります。
また、維持存続も難しい。
しかし、当ハヤブサ地区の消防団はこぢんまりながら団員の仲もよく、防火・消火活動にいそしんでいます。
団員同士が和気あいあいなのが非常に心地よい。
主人公も消火や山狩りなどの常時活動を経験するうちに、ハヤブサ地区の事情に詳しくなっていきます。
また、事件捜査でも消防団での活動が役立っています。
何せ消防団ですから、放火事件に関わらざるをえないわけでして。
なかなかおもしろい設定になっていると思いました。
もう一つの大きな舞台装置が新興宗教です。
現代の夢破れた不幸な人たちの寄る辺、宗教。
しかし、原理的な行動から犯罪に手を染め、公安にもマークされる危険集団。
それが理由はわかりませんが、牧歌的な農村に侵出してきます。
見知らぬ土地に暮らし始めた主人公は、しだいに村落の隠された秘密に気づいていく。
ある種ミステリーの王道でもありますね。
ただ、閉鎖的な地域の因習的な要素はありません。
そういう要素の代わりに、人口減や高齢化などの現代的な諸相が置かれています。
この辺りが令和的といいますか。
また、農村に不釣り合いな美女が現れます。
事件の解決に当たり、この味方と思った美女に不穏な過去がありと、誰を信用してよいかまったく五里霧中な展開に。
社会から個人を切り離しストレスを与えるというのは、判断力を奪う常套手段です。
主人公はなぞを解きつつ自分の身も守らなければならない。
目が離せない展開になっています。
3 過去の不幸が動機となる
本小説は犯人の動機が深掘りされることはありません。
それは新興宗教の教義ということで、そういうものとして扱われたままです。
一方、深掘りされるのは、事件の周辺に関わっている人たちの動機です。
零落した名家の当主、村の寺院の住職、警察署の署長。
それぞれが秘密にしておきたく、また自分の思い持って事件に関わるため、解決が難しくなっていきます。
少年マンガなら、みんな主人公に協力するのにねえ。
と嘆いてみてもそれが大人社会。
この展開も普通に考えたらストレスでしょうけれど、構成の妙でおもしろくなっています。
特に、小出しにされるなぞの美女の情報が主人公を不安にさせていくところはゾクゾクしました。
こういうところ、ほんとうにうまいなあ。
感心します。
3 総評
おもしろ過ぎて半日で一気読みしてしまいました。
事件が解決した後、主人公は村に住み続けるのかなあ。
たぶんそうだろうと思うのですが、平凡な日々が訪れるように思えず。
おそらく、続編はないでしょうけれど、その後の展開が気になる小説でした。
作中時間はほぼ1年です。
ずいぶん中身の濃い1年間だったと思います。
本書は、ミステリー好きだけじゃなくわくわくドキドキする小説を読みたい方すべてにお薦めできるエンタテインメント小説です。
読んで損しません。
とってもおもしろいですよ。