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「転移」で相手の気持ちを考える

 人と会話をしている時,好意を向けられればうれしいですし怒りを向けられれば嫌なものです。
 向けられる感情に心当たりがあればそれなりに納得できるのですが,なぜそんな感情が向けられるのか分からない場合があります。
 今回は,そんな現象の一つの解釈について話します。
 転移と逆転移です。

1 転移とは何か

 元々は精神分析の概念でした。
 幼少期に両親にいただいていた感情をカウンセラーに向くことです。
 つまり,両親に向くべき感情がカウンセラーに移ってきたととらえるわけです。
 感情が転移したということです。
 例えば,幼少期に両親に持っていた憎悪がカウンセラーに向かうわけです。
 これは,カウンセリングあるいは心理面接といった特殊な環境だから起きる異常な現象で,正常な反応とは区別する,とされています。

2 日常場面で起きてないか

 とはいうものの,これと似た不合理な感情を向けられたことはないでしょうか。
 私は,なぜそうなってるの?と思うことがたまにあります。
 私が鈍感で,相手を起こらせることをしていたのに気付いていないということもあるでしょう。
 その可能性は否定しませんが,それでも不合理と感じることがあります。
 好意に関する反応の際にこのように感じることは少ない,というかないので,だいたいなんで怒ってるのだろうと思うことの方が多いのです。
 これ今まで分からなかったのですが,転移が起きているんだと考えると納得できます。
 そして,そう考えた方がこちらの気持ちも楽になります。
 正しい「転移」概念の使い方ではないと指摘を受けそうですけどね。

3 逆転移とは何か

 逆転移精神分析の概念です。
 転移によって生じたクライアントの感情によって生じるカウンセラーの感情のことです。
 つまり,憎悪を向けられたので憎悪で返したということです。
 何か自然な反応のように感じますが,精神分析ではこれを押さえるようにしていたとのことです。 ロジャーズの3原則,共感・受容・自己一致から考えてもよい反応とはいえないでしょう。
 憎悪に憎悪で返していたのでは,共感も受容もできないといえます。
 現在では,逆転移は起きるものであるととらえているそうです。
 そして,逆転移が起きていることを自覚しつつ,なぜそのような感情が生じたのかを考えることで,相手をよりよく理解することができると考えられているのだとか。
 まあ,感情を抑えて自分を客体化して観察するということは大切とは思いますが,すごい精神力だなあと関心します。

4 日常の生活で

 転移や逆転移という概念を知っていると,人との無用なトラブルを避けることができるように思いました。
 万人がカウンセラーを目指すわけではない。
 カウンセラー以外には無用なこと。
 と切り捨ててもいいのですが,このことを知っていると,(ああ,この人は今転移を起こしているんだ)と思うと無用な怒りもわきませんし,相手をより深く分かることができそうです。
 心理学は,思わぬところで役立つような気がします。
 正当な使い方ではないと叱られそうですが。

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