最近「妻,小学生になる。」がドラマになっているのを知りました。
妻役の女の子の演技力が評判なようですね。
ドラマは見ていないのですが,原作のマンガは読んでました。
今回は,このマンガについて話します。
当然,ネタバレです。
1 心の傷を癒やす話
簡単にいうと死んだ妻が小学生になって生き返る話です。
これだけいうとなあんだになります。
この話のいいところは,この題材にあるのではありません。
登場人物それぞれの心の傷を癒やすところにあります。
主人公の父は妻を亡くしたことによる傷。
主人公の娘は母を亡くしたことによる対人恐怖。
こういうところを,江戸っ子っぽい生き返った妻が癒やしていく。
そんな話です。
その癒やしの輪がどんどん広がります。
生き返った母の実母の傷。
娘の交際相手の傷。
まあ小さいところでは,母の小学生の友達。
そんなところの傷も癒やしていく。
おそらくこういう癒やし系のお話なので受けているのだと思います。
2 現代人の病理
そして,心の傷を描くことで現代社会の様相を切り取っていきます。
娘の引きこもり。
まあ自宅ワークで働いているので,そんなに重くないんですが。
それから,母の家庭のDV。
シングルマザーのDVとか,現代的な問題です。
それと,シングルマザーをだます浮気男。
こういうことを描き出しているので共感を得ているのではないかと思います。
心の傷の背景があるのです。
3 生き返った母
生き返った母の活躍によりそれぞれの傷が癒えていく。
こういう構図なのですが,母の役割がいかにも現代的なんです。
母が八面六臂の活躍をして問題を解決していく。
こんな感じじゃないんですね。
母の役割は,それぞれの登場人物が自立していくのを助ける。
あるいは自立するきっかけを与える。
そんな役割です。
登場人物はそれぞれが自分の力で問題に立ち向かっていきます。
そして,それぞれの仕方で解決していく。
望んだ結末でなかったとしても,人生に力を取り戻していく。
いわば触媒のような役割を母は担っています。
おそらく解決しなくとも,立ち上がったことでもう成功なんですね。
現実は,自分の思い通りになりませんから。
ならないことを受け入れている時点で,健全な自分に戻っているのでしょう。
4 なぜこの話に惹かれるか
なぜこの話に惹かれるのでしょう。
おそらくこの母の役割がカウンセリングと同じだからです。
いや,積極的にかかわっていく母の行動からするとカウンセラーと同じことはしていません。
しかし,自分に素直で,相手を受容し,共感的に理解していく。
ロジャーズのいう3要素がすべて備わっています。
私が一番惹かれている点はここにあると思います。
ある種,カウンセリングの理想が描かれている。
そう見えるのです。
もちろん,母は登場人物の一人であって第三者の立場ではありませんけど。
非現実的な存在として登場人物にかかわることで,ある種の距離感が生じている。
その立場もカウンセラーの距離感と似ているのかもしれません。
実は,最新刊は買っていないのです。
なぜか。
もうすぐ結末を迎えそうで,そして異邦人来訪譚の結末はたいていああなので,それを読みたくないからかもしれません。
裏切ってくれないかなあ。
まとめると,この本はこんな人にお勧めです。
人を勇気づけたい人,勇気づけるきっかけがほしい人,そして勇気がほしい人。
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