岡田尊司さんの「シック・マザー」を読了しました。
私が最初思っていたことよりも深刻な問題がありました。
題名の「マザー」ですが,最近のフェミニズムの浸透から,これでいいのかなと思っていました。
しかし,個々の事例を読むとやはり「マザー」でなければならなかったのです。
生物の根源の問題であって,思想的・社会制度的な解決が及ばないところもありました。
二つのことが特に心に残ったので,それを述べたいと思います。
一つは,「シック」の中身です。
岡田さんは,身体的な病気で影響がでる場合もあることを述べていますが,多くの場合は精神的疾患の事例でした。
最近知ったのですが,うつ病と双極性障害(昔は躁鬱病と呼びました)は異なる病気として扱われているそうです。
明るい部分があるので,双極性障害の方がよいような印象をもっていましたが,子供に対する影響は双極性障害の方が大きいとのことでした。
なぜか。
双極性障害の方が一貫性のない態度になるからです。
つまり,子供にしたら同じことをしても褒められることもあるし叱られることもある。
また,無視というか反応がないこともある。
これでは,安定した対人関係を作ることができません。
あるのは混乱ばかりです。
考えて見れば当たり前のことでした。
まあ,だからといってうつな対応ばかりではやりきれないでしょうが。
実際,うつの子供は自己肯定感が低く,無気力になりがちだそうです。
困難に立ち向かうモデルがいないのだから仕方ないとは思います。
また,岡田さんはADHD因子の発現が高まることにふれていました。
愛着障害とADHDの関係は判定が難しいと思いますが,発現しやすい環境であることはまちがいないでしょう。
ところで,「シック」だからなのか精神疾患が多く取り上げられていましたが,発達障害の親の影響ってどうなのでしょう。
まだ事例が少ないのかもしれませんが,今後問題となってくると感じています。
配慮や対策がなければ,良好な家庭環境が作れるとは想定できないので。
二つ目は,「ヤング・ケアラー」の問題です。
岡田さんはこの用語を使っていません。
「ヤング・ケアラー」は介護に関する用語だからです。
しかし,年少者がケアをするということにおいては変わらないと思いこの用語を使いました。
何のことをいっているのか。
つまり,母をケアする子供のことです。
母の気分を読み取り,それに対応する子供という図式がこのような家庭では作られます。
母の気分が安定するように子供が配慮するわけです。
最初は自分の身を守るために覚えた術でしょうね。
これが進むと姉妹・姉弟のような親子になるとのこと。
仲むつまじく見ていて微笑ましい。
というのは,赤の他人の感傷のようですね。
内実は子供ストレスがすさまじくなっているようです。
一枚皮をむいてみないと,分からないことは多いと感じました。
さて,このように進む親子関係もあれば,親を罰しようとする子という関係も多くあるようです。
たぶん,反抗期などでは語れないものがあると思います。
解決は簡単ではないでしょうね。
読後,考えさせられたのは,各家庭の形というものです。
理想的な家庭があり,それに近づくようにする。
そういう押しつけめいたことから離れてきたのが現代の家庭だと思います。
悪いことではありません。
しかし,どこかが機能しなくなった時に,あっという間に崩壊する形でもあるなあと思いました。
バックアップ体制ができていない。
そんな感じです。
多くは社会的制度がそれを担うという議論がなされるんですけど,児童虐待で不幸な形で示されているように,社会が家庭に入るっていうのは難しいんですね。
家庭は,一つの世界になっているので。
こういう問題は,こうすればいいっていう簡単な解決がないような気がします。
たいていいくつかの問題が相互に絡まっていますから。
それでも,世の教育とか福祉とか保健とかの関係者が,もっと「シック・マザー」という人間の成長に長期的問題を及ぼす事象に関心をもってもらいたいなあと思いました。
この本はおすすめです。ただし固い本なので読みやすくはありませんけど。
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