1 本作の概要
夢枕獏さんの伝奇小説です。
系統としては陰陽師シリーズです。
というか、おそらく同じ世界の話です。
ただしこちらは江戸時代です。
火龍は化龍が転化したものとのこと。
要は、化け物に対応する役目を果たすのが火龍改なのです。
安倍晴明に期待された役割を江戸時代で担っているというわけです。
ただこの主人公、遊斎といいますが、長屋住まいで独り者、風変わりな道具に囲まれて暮らしているという、平安貴族とはずいぶん異なる生活をしています。
源博雅のような理解者がいるでもなく、一人で解決に取り組みます。
安倍晴明から一歩も二歩も怪しい世界に入り込んでいる印象です。
2 人の気持ちが妖を呼ぶ
短篇集なのですが、中に中編というべきたっぷりと語り尽くした話が載っています。
桜怪談
商家の跡取りについてのお話です。
人間関係が複雑な商家で、単純に分ければ後妻に息子を殺された主人の敵討ちなのですが、そうも簡単にいえない関係になっています。
この主人の性格が分からないでもないんですが、妙なこだわりをもっているのです。
そこに妖がつけこんだとも言えるのですが。
犬神に取り憑かれた男の恐ろしさやそれと対決する遊斎たちのかっこうよさ。
おもしろいまでにキャラが立っています。
この当たりはさすが夢枕獏さんといった感じです。
陰陽師もそうなんですが、妖怪を描きながら実は人間を描くというのがこの作者のすばらしさ。
結局、人ならざる者に憑かれるのは、人としての心を失ってしまったからだ。
そう思わせ、最後には人間というものの悲しさを描き出してしまう。
ただのホラーものと夢枕獏さんの小説の違いはそこにある。
今回もこれを強く感じました。
3 総評
とにかく続きが読みたくなった作品です。
陰陽師も2巻以降でようやく登場人物像が固まった感があるので、本作も次巻以降が非常に楽しみです。
呪を切り口にこの世を語る晴明とは別の、遊斎ならでは考え方が現れてくるといいなあ。
ただ、陰陽師の登場人物が現れるのは、ほどほどの方がいいように思います。
遊斎が晴明の生まれ変わりとかそういうのだったら、興ざめしてしまうので。
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