1 物語で学ぶという手法
本書を実用書だと思って開きましたが、まったくちがっていました。
これは、中学生を主人公とした小説です。
ただし、おカネについて主人公とともに学んでいく小説です。
作者は、新聞記者の経験があるとのこと。
おカネについて、順序よくかみくだいて説明しています。
難しいことも取り上げているんですが、軽妙な文体でサクサク読み進められました。
印象に残ったこと3点を述べます。
- お金を手に入れる6つの方法
- ご利用は計画的に
- お金をつくる
2 お金を手に入れる6つの方法
舞台は中学校のクラブ活動です。
そう、部活動とは別のクラブ活動、週に1時間だけあったあの時間です。
クラブの名前は、そろばん勘定クラブ。
そろばんは使わず、金融について考えるクラブです。
ここで先生は、お金を手に入れる方法は6つあるといいます。
さて、どんな方法か?
- かせぐ
- ぬすむ
- もらう
- かりる
- ふやす
後ひとつは何でしょう?
後で述べます。
先生は、この6つに当てはまる仕事を考えさせます。
生産者は概ね「かせぐ」に入ります。
商人も「かせぐ」でしょう。
一方、かせがないけれど、社会の役に立っている仕事があります。
本書の例では、昆虫学者です。
これは、「もらう」仕事です。
かせいでいないのだから、そうなります。
ちなみに「かせぐ」と「もらう」に上下関係はありません。
世の中には、役に立っているのか疑問だけれども、必要とされている仕事があります。
本書では、バイシュンフや軍人があげられ、必要悪を呼ばれていました。
「ぬすむ」はどろぼうばかりではありません。
必要以上のお金を取る高利貸し。
こういう者も「ぬすむ」に入ると考えられます。
しかしながら、職業で一様であるわけもありません。
かせぐサラリーマンもいれば、もらうサラリーマンもいます。
かせぐ銀行家もいれば、もらう銀行家もいる。
そして、ぬすむ銀行家もいる。
お金を手に入れる方法から、社会の仕組みも考えられます。
そろばん勘定クラブの中学生は、どんどんお金と世の中に詳しくなっていきました。
3 ご利用は計画的に
「かりる」についての勉強もおもしろかったです。
金貸しはいいことでしょうか、悪いことでしょうか。
そろばん勘定クラブの先生の答えはこうです。
借り手と貸し手に合理的で理性的な合意がある場合に限り、よい。
こういうことです。
ずいぶん条件がついていますね。
合理的で理性的でない場合はどうでしょう。
例えば法外に高い利子を取る。
作中、中学生も複利で増える大きさに驚いていました。
高い利子は合理的ではありません。
よってこの場合はよいとはいえない。
それでは理性的でないとは、どんな場合でしょう。
大金をなくしたので、成功する確率は低いが借金をして一発逆転にかける。
理性的な判断とはいえません。
おそらく失敗するでしょう。
こういう場合は,人生をぼうに振る可能性が高い。
だから先生は、合理的で理性的な場合に「かりる」は成立するといっているわけです。
借金は、お金の暴力性をこれでもかと明らかにしますので、特に注意が必要です。
4 お金をつくる
6つめのお金を手に入れる方法は、お金をつくるでした。
ここで先生は、信用創造について話します。
こんな例でした。
100万円を銀行は預かり、10万円を残して、90万円別の銀行に預ける。
90万円預かった銀行は、9万円残して、81万円を別の銀行に預ける。
こうしていくと、紙幣自体は増えていませんが、口座預金の金額はどんどん増える。
これがお金をつくりだす信用創造だというのです。
こうすることで、世の中にお金が回っていくのだ。
先生はそういいます。
まあしかし、専門的なことはわかりませんが、ちょっとだまされた感がありますね。
最初の銀行に100万円預けた人しかお客がいなかったとして、その人がお金を引き出しに行っても10万円しかないから全額は引き出せないわけです。
ちょっとした取り付け騒ぎとなりますね。
なので、先生はこれを「信用」創造だといいます。
引き出させてくれると信じているから、こういうお金の回し方ができるのだと。
お金をつくるということは、信用されているからできることなのでした。
5 総評
実用本かと思って読み始めたら小説だった。
そういう意外な1冊でしたが、とてもおもしろかったです。
お金の考え方の基本を学ぶことができました。
登場人物も魅力的ですし、展開もおもしろい。
とても楽しくお金について学ぶことができる本です。
この本、中学生だけじゃなくて大人にも読んでほしいです。
お金とのかかわり方が変わると思います。
お薦め!!