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【書評】まちおこしの基本論点「地域再生の失敗学」

1 専門家との対談集

経済学者の飯田泰之さんが地域再生の専門家と対談し、地域再生の問題点を明らかにするという本です。

それぞれの専門家の指摘が具体的で興味深いものでした。

特に印象に残った3点について述べます。

  • 稼げるまち
  • 半官半民の取り組み
  • 集団移転

2 稼げるまち

木下斉さんとの対談では、地域が稼げないと地域再生にはならないことが明らかにされていました。

地域再生の例として「ゆるキャラ」が取り上げられていました。

最も成功したと考えられる「くまもん」でも、稼げるようになっているかは疑問とのことです。

このような取り組みの成功指標として、経済効果がよく取り上げられます。

阪神が優勝したら○○億円の経済効果!

こんな感じのやつです。

しかし、これは関連した商品の売り上げなどを全部累積した場合の数字だそうです。

つまり、優勝しなかった場合でも売り上げただろう金額の合計と比較して表したものではないとのこと。

純増ではないのだそうです。

なので、ほんとうにどれだけ稼いだかはわからないのだそうです。

もしかすると、かかった経費を考慮したら、全然儲かっていない場合もあるのだとか。

地域再生は行政中心のイベントになりがちなんですが、費用対効果はあまり考えていないのだそうです。

儲からないイベントは継続しないので、地域再生にならない結果となります。

大事なことは、地域にお金を呼び込むこと、つまり地域がもうけることなのだそうです。

そうすることが地域再生につながる。

飯田さんと木下さんは、こう結論づけました。

3 半官半民の取り組み

公共施設を利用すると、指定管理者制度で民間企業が働いていることがあります。

わたしの街の体育館もそうで、ジムは指定管理者になりました。

利用者としてみると、指定管理者に変わったからといって何か変わったことはありませんでした。

利用料金が数10円下がったくらいかなあ。

スタッフもそのままだったし。

と利用者にあまり負担のない指定管理者制度なんですが、これがあまり機能していないとのことでした。

指定管理者制度はざっくりいうと、施設・設備は公が用意し運営を民間がするという形態です。

それで、うまくいかなくなると、つまり民間の運営が赤字になると、公がそれを負担する形になるのだそうです。

それで、赤字になっても民間を切ることができず、公債でまかなう形で続いていくのだとか。

民間の手法・活力を生かすといっても、民間だから必ず成功するわけではないんですね。

そこには、やはり稼ぐ形が必要なわけです。

最悪なのは、天下りポストみたいになって、行政のOBがそこに居座ること。

改善はまずないとのことでした。

2000年代以降、民間の手法をといってた政治家は多かったと思いますが、典型的なのは大阪府の民間人校長だと思うのですけど、民間だからいいとかそういうわけじゃないんですね。

個々の事業ごとに、採算の取れるプランじゃないといけないのだと思います。

4 集団移転

地方消滅という本が話題となったことがあります。

実際、人口減が一定以上進んだ場合、そこから増加に転じた例は極めて少ないのだそうです。

そうでしょうね。

油田でも見つかれば、人は集まってくるでしょうけど。

そこで、ある一定以下の戸数となったときに浮上してくる案が、集団移転です。

つまり、地域全体で転居するということです。

このことについて古里喪失みたいな感情で批判する方は多いそうです。

しかし、現場を調査した方からすると、それは案外都市住民に多い意見だそうです。

エアコンの効いた部屋で、農村の写真集を見て話している。

こんなイメージだとか。

集団移転する前は、住民に不安があります。

当然ですね。

しかし、集団移転した後に調査をすると、移転してよかったという意見が多数で、戻りたいという話はないのだそうです。

地方に住む高齢の方の生活課題は、医療と買い物のアクセス。

それがよくなるところに転居するので、満足した意見が増えるのだそうです。

それで、どこに移動するのがよいかというと、元々住んでいたところの近くの都市周辺がよいのだとか。

つまり、街に近づくという感じです。

街には、買い物や通院で通っているから親しみがあるのがよいとのこと。

農村といっても農村で生活が完結しているわけではなく、街を利用して生活している人が大半です。

だから、その部分は変えないのが成功の鍵だそうです。

また、移転先に住んでいる住民の理解を得ることも、もちろん大切なんだとか。

こうして、コンパクトシティがつくられていくのも、今後の姿なのかもしれません。

ただし、集団移転の事業を経験した行政マンが少なくなってきているのが課題だそうです。

様々な課題があるため、経験による智恵の継承していく必要があるそうです。

5 総評

本書は2016年初版で、少し古いのですが論点は今も通じるものだと思います。

地方の問題は、結局、自立の問題になると思います。

しかし、若者を無理やりしばりつけることもできません。

若者に限らず、人が寄ってくるところにすればいいのです。

そのための総務省とかの取り組みが、うまく活きていないのがもどかしい感じではあります。

地方にいて事業を興そうとする時に、本書のような視点を持っていると、妥当な展望を持ちやすいのではないかと思いました。