ボーイミーツガールものが好きです。
この年齢になっても,その初々しさに共感しています。
しかし,なんでもいいという感じではありません。
やはり,玉石はなんにでもあるものです。
さて,そういったジャンルの嚆矢として「野菊の墓」があります。
今回はこの小説の感想をネタバレで話します。
1 「野菊の墓」とは
ご存じ伊藤左千夫の代表作です。
正直にいうと,著者の作品はこれ以外知りません。
題材は,ローティーンの恋です。
主人公と主人公の家に奉公に来ていた年上の少女が淡い恋をします。
しかし,外聞を気にした主人公の母が別離をさせます。
少女は嫁ぎ先で亡くなります。
まあ,こんなあらすじです。
2 共感できるか
夏目漱石が絶賛したということで,この作品は評価が高いのです。
まあ,認められるのはいいことです。
でも,まあそこはどうでもいいような気もするのですね。
少年の恋として,この話にどこまで共感できるかなんですが,あまりできませんでした。
まあ,明治という時代背景はあるでしょう。
しかし,主人公に恋の感情がとても強いようにも思えないんですね。
流されるままだし。
有名な「野菊のような人」というセリフも,少女が野菊を好んでいると自分から話したことを受けての話です。
どうなんでしょう。
この話は,矢切の渡しで終わっているような気がします。
あとは後日談ですね。
少年は,恋という感情をどう扱っていいか分からない。
そんな感じが続く作品です。
こういうのって,文学的には価値があるのかもしれません。
しかし,恋愛小説って障害を克服しながら恋に邁進するのがおもしろいのであって,初恋に戸惑うばかりではなあ。
戸惑いがあってもいいけど,それだけがすべてではつまらない。
そんな感じを持ちます。
3 エーベルバッハ少佐の恋
「エロイカより愛をこめて」というマンガがあります。
ここで主人公並みの活躍をするエーベルバッハ少佐が故郷で任務に当たる話があります。
少佐は少年時代「イモクラウス」とあだ名されるくらいジャガイモ好きでした。
ジャガイモ畑を荒らす子どもを追い払っていたのです。
しかし,これはかれの本意ではありません。
本当は,畑を管理する修道院のシスターに恋していたのです。
初恋です。
それで中年になった少佐がこの修道院を訪れるとと,恰幅の良いにこやかなシスターが迎えます。
少佐は,少年の頃の話をせずに立ち去ります。
ちょっとしたエピソードなのですが,この話はどうにも忘れられません。
初恋の表現としては,こちらの方が上のように思えますね。
4 もしも
少女が嫁いでなくならなかったらどうしたんでしょう。
会いにいったんでしょうか。
それもどうかなあと思うのです。
駆け落ちでもしたのでしょうか。
おそらくそれもないでしょう。
少女が嫁ぎ先で幸せになっても,少年の初恋にはあまり影響ないんじゃないか。
やっぱりこの恋は矢切の渡しで終わっている。
後は感傷に過ぎない。
こういう気持ちがぬぐえません。
私には,亡くなったエピソードは蛇足のように思えるのですね。
5 別の見方
この小説を少女の視点から描いたらすごくよい話になるかもしれません。
恋の経緯や障害も明快だし。
自らの決断も勇気がいったろうし。
まあ,亡くなるのはどうかと思うけれども,複雑な心理描写もあったろうし。
でも,死人に口なし。
自分では語れないから,小説の形式はとれないかなあ。
名作「野菊の墓」はそういうものではない。
とも思うのですが,今ひとつ心の動きに共感できないんだなあ。
少女の夫だった方や主人公の奥さんの気持ちはどうなってんだろうとも思うし。
臨まぬ結婚をして生きているみたいなことを主人公は言ってますが,奥さんに失礼でしょ。
こういう感じ方は,自分の感性の問題だとも思いますが,やっぱりすっきりしないのです。
夏目大先生との感性の乖離は大きいと感じました。
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