1 本作の概要
神様の頼みごとを人間が解決するというファンタジーです。
本来、人間の願いごとを聞くのが神様。
それを逆転させた設定です。
なのですが、主人公の無双設定もないしハーレム設定もないし、というか恋愛要素は薄い。
どちらかというと、絆の大切さというか想いの大切というか、そういうものを前面に出した小説です。
社会人野球をけがで引退・退社したお人好しの青年が神様の面倒ごとを解決していく。
神様の依頼ごとを直接解決するというよりは、その悩みの根本原因を取り除く。
こういうお話です。
1巻に4話ずつ収録されていて読みやすい感じです。
鬼平犯科帳もこんな長さでしたね、そういえば。
2 一言主大神
第1巻で1番印象に残ったのは、一言主大神です。
よいこともわるいことも一言で表すという神様。
古事記に出てくる由緒正しい神様です。
なのですが、本作では引きこもりのゲーム中毒男子中学生の姿で現れます。
ギャップねらいなのか。
なんでしょう。
この姿の必然性はお話の中にありません。
ただ、御用人の主人公とゲームの話題で意気投合します。
神様を親しみやすい存在にするために有効な設定だった。
そうプラスに考えておきます。
3 神様の悩み
日本神話の神様は、総じて親しみやすく人間くさい。
少なくとも叡智をもって世界を導いたり、万物にとってよい総合的な判断をしたりとかをする存在ではありません。
かえって感情的な行動がめだちます。
そういう意味で本作の一言主大神もそうなのですが、今回の悩みは信心深い少女が自分に願いや悩みを話さなかったというものです。
それで、自分自身の存在価値を問うてしまったと。
こういうことでした。
まあ、親とかの庇護者が子に信頼されていなかったと嘆くことと大差ない感じです。
これの解決は、話さなかったからこそ信頼されていたのだという解釈でした。
まあ、なんだかなあという感じです。
そういうことも見抜くのが神の神たる由縁だと思うのですが。
いやこれで大団円なので問題はありませんけど。
本作の他のお話でも、神様の悩みの解決の多くは認識違いとかそういうものです。
4 総評
本作のシリーズは人気作だそうです。
確かに親しみの持てる主人公、心温まる解決策。
人気が出るのも分かります。
ただですね。
今一つ深まりがないというか、物足りないというか。
そういう読後感が残りました。
すべて短編だからかもしれません。
もう少し、登場人物の内面を描くようなお話があってもいいかな。
無い物ねだりなのかも知れません。