ギスカブログ

 読書しながらスモールライフ「ギスカジカ」のブログ

【ネタバレ書評】「掟上今日子の遺言書」

1 忘却探偵の4作目

忘却探偵、掟上今日子シリーズの4作目、書き下ろし作品です。

今回は長編でした。

中学生の投身自殺(未遂)にかかわる謎を解きます。

さて、忘却探偵について一通りの説明をします。

掟上今日子さんは自称25歳。

記憶が1日しかもたない体質の探偵です。

寝て起きると前日の記憶はすっぱり忘れ去られています。

そのため、事件を解決する時間は1日しかありません。

最速の探偵とも呼ばれています。

そして、1日しか記憶が持たないため守秘義務も完璧と評されています。

さて、自殺(未遂)事件をどう解決するのでしょうか。

2 事件の概要

本作の語り手は隠館厄介。

幼い頃から犯罪に巻き込まれることが多く、えん罪なのだが犯人と疑われることが多い体質です。

本作でも、殺人犯と疑われています。

が、けっこう無理のある設定になってます。

ほんとうは被害者です。

歩道を歩いていたら、投身自殺を図った女子中学生が上から降ってきたのです。

激突。

幸い双方とも命に別状はなし。

厄介は骨折、中学生は意識不明です。

それで、殺人を疑われているのですから、不運もここに極まれり。

さて、警察でも自殺による事故という認識ですが、関係者の一人が違和感をもちます。

きれいに整いすぎている。

そういう違和感です。

3 遺書

自殺と判断されたのは遺書があったからでした。

それはあるマンガの文章を引用したものです。

ここから、マンガの影響で自殺を図ったのではないか。

そう考えられたのです。

芸術の影響で自殺を図った、行ったという事例は数少ないながらあります。

オジー・オズボーンの「自殺志願」などは、それで裁判になった音楽雑誌で読んだことがあります。

本作では、マンガの作者がそれで筆を折ろうとしていたのですが、編集者が何かおかしいと感じて今日子さんに依頼をします。

結果、どういう真相が明らかになったかというと

4 中学生と自意識過剰

結論からいうと、本事件は自殺と殺人を兼ねたものでした。

中学生は、なんと下の歩道を歩く人物めがけて投身したのです。

そして、見事命中。

ただし、両者とも命は助かったのですが。

とはいえ、厄介にうらまれる要素はありません。

人違いです。

さすが不幸体質といわざるを得ません。

どうしてこんな行動をとったのか?

中学生は自分を韜晦する傾向があったそうです。

つまり、自分の本来の姿を知られたくない。

そんな願望をもっていたのだとか。

中学生は読書家でした。

本棚を見ればどんな人間かわかる。

そんな風にいわれます。

なので、自分がどんな本を読んでいるのかは隠したかったのでした。

そのため学校図書館から借りる本は、本来読める量を超えていたそうです。

これはおとりです。

つまり、本来読みたい本を隠すためにダミーも借りていたのです。

そして、小遣いで買った本は古本屋に売っていた。

なので古本屋の主人には、自分の本の趣味が知られてしまっていた。

それで、古本屋の主人めがけて投身したのです。

自分と相手の両方を亡き者にする。

それがねらいだったのでした。

遺書は自分の真のねらいを攪乱するために書いたものだとか。

5 総評

確かに、思春期の頃は衝動的に自殺を図る者が現れます。

そういう年代ではあります。

とはいえ、今回の動機は実感がわきませんでした。

真の自分をごまかすには、他にも方法がありそうですしね。

たまたまこういう設定を思いついたので、作品に仕上げました。

そんな感じがします。

謎が解けた爽快感よりも動機の不自然さが強く印象に残りました。

しかしですね。

今作の魅力は別にあると思います。

それは、セーラー服姿のなった今日子さん。

骨折した厄介を介助しながら歩く、つまり恋人たちのように寄り添って歩く今日子さん。

そういうシーンが魅力だったのではないでしょうか。

つまり、キャラクターを愛でる小説。

そういう回だったのかもしれません。

単行本の表紙も文庫本の表紙も、セーラー服の今日子さんですしね。