カウンセラーの方の本です。
臨床心理関係からは少し離れた方なのでしょう。
なので、これまで読んだ本とは違い新鮮でした。
何が新鮮だったか。
カウンセラーは傾聴が基本で、自分からこ「こうしなさい」と話す方はまれです。
ロジャーズのクライエント中心療法でしょうか。
多くのカウンセラーはこの姿勢でカウンセリングを行っています。
筆者の中村 将さんは違うのですね。
自分の考えをどんどん話しています。
本書はほとんどが事例で構成されているのですが、そのすべてでクライエントは中村さんの考えを受け入れています。
まあ著書ですから、特に理由がない限り失敗例を載せることはないと思います。
なんですけど、これが押しつけがましくなくおもしろいのですね。
おそらくは、文章だけでは伝わらない中村さんの話し方とか表情とかに秘密があるように思います。
こういう手法をとっているせいか、中村さんはこんな肩書きを名乗っています。
「気づかせ屋カウンセラー」
クライエントに気づかせることをやっているという訳です。
押しつけているのではなく気づかせている。
こういうスタンスで望んでいます。
さて、気づかせるための道具ですが、中村さんは簡単なマトリックスを使っています。
どんなマトリックスか。
自分にとって「悪いことがある」「悪いことがない」
相手にとって「悪いことがある」「悪いことがない」
この観点を組み合わせて、四つの枠を作ったものです。
横軸が自分で、縦軸が相手でした。
自分にとっても相手にとっても「悪いことがない」なら問題がないということです。
まあこの状態で相談に来る人はいません。
自分にとって相手にとっても「悪いことがある」ならそもそもやめればよい。
この状態でも相談に来る人はいないでしょう。
残りの二つが問題なんですね。
で、相手にとって悪くなく自分にとって悪い場合が、最も相談が多いわけです。
中村さんはその場合は、関係をやめればいいと話します。
または、気分の問題で実害がないならいいじゃないか、といいます。
これが「気づかせ」のテクニックなんですね。
クライエントが「そうはいっても」と言ったらしめたもの。
本当の悩みに気づかせたり、自分の隠れた思いに気づかせたりする訳です。
まあ、人間関係の悩みの多くは、関係を切ればおしまいなので、それはそうなんですけど、実際にはそうはなりません。
自分にとってよい関係に持ち込みたいという欲望があるから悩みとなるのです。
それって大事なこと?と考えさせたり、離れても大丈夫なんじゃない?と思わせて行動への意欲付けをする。
こういう解決方法のようです。
まあ、うまくいっているのが多いのでいいのですが、うまくいかない場合もあったんじゃないかなあと想像します。
クライエントもいろいろですから。
でも、こういう手法もありだなあと思いました。
自分はカウンセリングをするつもりはないですが、自分自身の問題に対して、こういう手法で問題を捉え直し、どうすべきかを考えたいと思います。
さっと読めて参考になるとてもよい本でした。
付記 作者の中村さんのこの著作を出版した5か月後に病気でお亡くなりになったようです。コラムや後書きに病気のことが書いてあったので調べたら分かりました。もっと著作を読みたかったなあ。ご冥福を祈ります。