1 本作の概要
池井戸潤さんの企業小説、今回はゼネコン業界の談合が舞台です。
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主人公は建築学科出身で中堅ゼネコンに勤めて4年目の青年です。
熱血漢で現場が好き。
でも、辞令で業務課に異動となりました。
この業務課、談合課と呼ばれる部署で、仕事を取ってくるのが仕事。
ゼネコンの生々しい部分の最前線に送られました。
ここで社運がかかった地下鉄工事の入札に奮闘することになります。
しかし、この工事には政治家や特捜部の関係し、しだいに大きな事案となっていきます。
さて、主人公はどうなるのか。
というエンターテインメントの王道をいく作品でした。
2 ミスター談合
本書は、主人公である若いゼネコン社員が談合の是非を悩みながらも業界の慣習にとらわれていく姿を描いています。
その過程で、主人公がミスター談合ともいうべき人物と出会います。
この人物、非常に魅力的で人間的に尊敬できるところが多くありました。
そして、自身は談合なんてなくなればいいと考えいます。
しかし、調整能力は随一、本人は悪と認識しながらも仕事として行っています。
主人公は、その仕事に疑問を感じつつ、その人物への尊敬は失わないままです。
談合は不法行為なんですが、その存在意義をこういう擬人化した形で表現したのかもしれません。
魅力的な人物が多くでる本作の中でも、最も魅力てきな人物です。
3 策士
主人公を業務課に異動させたのは、常務でした。
次期社長の呼び声も高いこの常務、あまりしゃべらず眉間にしわを寄せたままの表情のため、女子社員から大仏などていわれています。
主人公を買っているのかどうなのか、難しい仕事を主人公に託しています。
この常務、業績のよくない会社の建て直しのために検察や談合組織を巻き込んだ作戦を立案しました。
もちろん、本社の人間にもその全貌は明かしません。
密かに進行させていきます。
主人公は、その駒として業務課に異動させたのです。
計画が破綻すれば会社がなくなってしまうような作戦。
非情な人物です。
4 主人公
すべて終え、常務の真意もわかった主人公は、元の現場に戻ります。
そして、建築の仕事を楽しそうに行っていました。
この主人公、とにかく一生懸命です。
談合に疑問をもちながらも会社のための仕事に邁進します。
こんな人物だからこそ常務は作戦の重要な駒として採用したのでしょう。
主人公は、業務課での1年の間に恋人と別れ、母親が病気に倒れてしまいました。
それぞれ最悪な結果にはならなかったのですが、それにも関わらず悪と感じていた談合に懸命に取り組みます。
その姿は泥臭いのですが、共感を呼びます。
主人公らしい主人公といいましょうか。
現場に戻った主人公が幸せになることの祈っています。
5 総評
吉川英治文学新人賞受賞作品ということですが、それもさもありなん、名作です。
談合という闇をテーマとしながら、談合にかかわる様々な人物の魅力をあますところなく描いています。
そして、サラリーマン青春小説といってもよいくらいさわやかな読後感。
常務の真意が謎としてとらえれば、一種のミステリーとしても読めます。
長い小説ですが、長さをまったく感じさせませんでした。
未読の方に、ぜひ一読を薦めます。
退屈さはまったくありませんよ。