1 「銀翼のイカロス」読了
半沢直樹4「銀翼のイカロス」を読み終えました。
相手の組織が大きくなって,扱う案件も大きな話となりました。
だからか,半沢一人の活躍というよりは,群像劇に近くなっていました。
ネタバレしながら,感想を話します。
2 動機の小ささ
さて,国の政策に関わるような大きな出来事が扱われているには,やはり動機が小さいですね。
小学生の時,銀行員の息子にいじめられた。
政権党の手先となって銀行を追いつめる弁護士の動機がこれです。
上司のいうがままに保身のため仕事をした。
融資を承認させるためにウソの書類を作成した銀行員の動機です。
その他の動機も小さいことですね。
まあ,この小説は犯罪を犯す人間の心理描写から人間の本質を描く,といったものではないのでこだわる方が変なのでしょう。
しかし,現実でもこんな感じで人生の転落が始まるのかも。
人間ってそういうものかもしれませんね。
3 上職の責任
この小説は,ある銀行員の遺書から始まります。
なぜ自死したのか。
これが,小説を貫くテーマとなっています。
答えは,疑惑の隠蔽と部下の将来を保障するためです。
この判断の妥当性も問われます。
結果,すばらしい銀行員であったが妥当ではなかった,となりました。
上職の「鑑」ではありますが,私もどうなんだろうと思いました。
私がそんなに出世して,そんな立場になることはないでしょうから,そういう気持ちは想像できません。
でも,どうでしょうね。
おそらく全部明らかにして,関わった人を全部当事者にしてしまうでしょう。
組織の問題を個人が背負ってはダメだと思うのですよ。
大事になっても,それはそれぞれが何とかしないと。
震災を経験しているかもしれませんが,こういうところは淡々とするのがいいと思うのです。
免罪符にしちゃダメですけど,責任といっても程度がありますからね。
4 アマチュア統制
シビリアン・コントロールは軍に対する制御です。
しかし,専門家に対する一般市民からの制御ということは,専門組織が節度を保つために必要なことでしょう。
それは,この社会の様々なところで機能しています。
ところでこの小説では,政権交代を実現した政党による金融行政に対して,シロウトが無理解で押している,といった描かれ方があります。
対立図式を明確にした方が小説としておもしろいので,仕方ないところでしょう。
でも,専門家が「任せとけよ,このシロウトが」という態度で行うのは危ないと思うのですね。
具体的な知識ある方が妥当な判断を下せるとは限りません。
まあ,だいたい問題ないことの方が多いと思いますけど,万が一ってことがありますし,悪意をもった方がいないとは限りませんし。
そういう意味で,この小説の描き方を過度に一般化することは危ないと思いました。
そもそもこのお話も専門家の銀行が不正融資に加担していたわけですしね。
まあ,小説に目くじら立てるなよ,といわれるような感想ではあります。
5 「半沢直樹」の今後
次回作は,半沢の若い頃に話になったそうです。
なんだか分かります。
大物政治家まで相手にしてしまっては,次の相手選びが大変です。
敵役のインフレーションですね。
それに,「銀翼のイカロス」はおもしろかったんですが,1作目2作目ぐらいの規模の方が,主人公もいきいきと活躍するのではないでしょうか。
最初に書きましたけど,調査部の方や頭取やそういう人たちの活躍があって,ちょっと群像劇に近づいていましたのでね。
半沢の妻も出ませんでしたし。
まあ「鬼平犯科帳」みたいに組織のトップが主人公なら,それぞれの活躍を描くのもいいのでしょうけど。
一バンカー「半沢」の活躍が読みたいですね。
ところでバンカーって一般的な言い方なんでしょうか。
違和感を感じましたけど。
|