1 本書の概要
最近、発達障害の身近になってきました。
しかし、実際に発達障害の方と交流した方でないと、その実像は分かりにくいと思います。
ネットでは、学校や会社でうまくいかないと自分で診断して自称「発達障害」となっている人いるようです。
文章で表現されているものだけで想像することはかなり難しいんですね、この障害は。
なので、本書のような現場の具体にそったルポは貴重だと思います。
本書は、学校だけではなく放課後デイサービスなどさまざまな施設を取材しています。
こういうところもいいですね。
おそらく一般の方には、放課後デイサービスが何かも分からないと思いますので。
トータルとしてどのような支援があり、課題が何かを明らかにしている点がいいですね。
本書の元が新聞の連載だったということも価値があると思います。
2 発達障害とは何か
発達に関わる障害を抱えている者。
簡単にいえばそうなります。
これだとよく分からないですよね。
身体的な障害は含みません。
脳の発達にかかわる部分が関係しています。
とはいえ、重い知的障害とか人と話せない自閉症とかそういう方は含みません。
義務教育でいう特別支援学級に入らない人、あるいはギリギリ入っている人。
そういう人を指すことが多いです。
なので、障害者手帳を持ってない人が多数。
ということは、障害を持たない人と一緒に過ごすわけですが、これが大変。
成績などでは負け組になることが多いのです。
サヴァン症候群(自閉症の方で一部の才能が抜群な人)に希望を見出す方もいますが、それはまれ。
障害がない方の中で才能がある人を見出すのと、どっちが確率が高いか。
変わらないと思います。
さて、それなら福祉支援が必要でしょうということになるでしょう。
でも、それはないか薄いことが多い。
福祉は重い障害の方に向いていることが多いので。
とても不利な社会弱者なのです。
さて、具体的な障害はどのようなものかといいますと、主に3種です。
1つめが、ASD。
軽い自閉症です。
他人の気持ちを想像することが苦手で、比喩などの理解も困難。
字面どおりに理解する人です。
なので、コミュニケーションに課題があり、協働活動が難しい。
他にも特徴はいろいろあるんですが、おおざっぱにいうとこんな感じです。
2つめが、ADHD。
注意が散漫で、集中力がなく、多動で落ち着きがない。
そして、感情の起伏が激しく、かっとなりやすい。
ADHDのこういう字面の特徴をいうと自分も忘れっぽいから当てはまるなんて人がいますが、注意散漫のレベルがそんなもんじゃありません。
そして、危険と判断して多くの人がしない行為をしてしまう。
勇気があるとかそういうレベルじゃないぐらいのことをです。
これらのことから当然ですが、集団での行動に困難を抱えます。
3つめがLD。
識字とか計算など特定のジャンルに困難を抱える人です。
英語圏だとディスレクシア(文字の読み書きが困難)としてよく表れますが、これは英語の綴りが発音と合ってないからだと思います。
日本でも、文章を拾い読みで読む方いますよね。
なので表記と音声が合っていても現れます。
さて、全般的な遅れないというものの、LDと境界知能は、明確な区別が難しいです。
そもそも知能検査がそこまで精密なものでもないので。
明確にこの分野だけっていうLDが少ないということもあります。
これらの発達障害は脳の機能障害といわれています。
つまり脳の発達に問題があったということ。
ただし、脳がどうなってこうなったのかはわかっていません。
レントゲンに写る病巣みたいなのがあるわけじゃないんです。
3 ケアについて
本書は新聞のルポなので、各施設における適切ではないケアについて糾弾するような筆致になってます。
確かに、かなり問題なケアを取り上げている部分もありました。
是正が必要でしょう。
ただ、ですね。
この障害を抱えている方が落ち着いている場合はいいんですが、感情が高ぶっている時のケアって正解がないんですね。
どうやったら落ち着くのかが難しい。
ということはですよ。
一対一で、親代わりになってなだめるしかないんです。
そういう人員、確保できますか。
利用する人一人につき職員一人。
難しいし高額になります。
理想はいいんですが、ない袖はふれないんです。
タイトルにもあるように「ふつう」じゃなくともいいとは思うのですが、現実の運用は難しいと思います。
人員はより重い障害の方に割り当てられがちですから。
それから「ふつう」って現場の人あんまり考えてないんじゃないかなあ。
どうにかこの社会の中で、生きていける場所を探そうという気持ちは強いと思いますけど。
そもそも、現代は「ふつう」を目指さない人が多数だと思うのですよ。
4 総評
★★★☆☆
3つにしました。
ルポルタージュ自体は意義が高いと思います。
世の中がもっとこの事実に目を向けてほしいです。
ただ、解決の方向性としてはどうなんでしょう。
もっと福祉行政全般を考えないといけないんじゃないかなあ。
施設の職員の姿勢を糾弾しても、根本の解決にはならないと思います。
利用者の思いが反映される支援策が望ましい。
と一般論ではいえても、具体や各論になると難しさが生じるわけでして。
それに、ペンギンは南極で暮らすのが一番幸せだ、と決めつけるのもどうかと思いますし。
発達障害は増加しているらしいので、なんとかしなくちゃとは思いますが。
ともあれ、問題提起の書として本書は意義があると思います。