ギスカブログ

   読書しながらスモールライフ「ギスカジカ」のブログ

MENU

【書評】松本俊彦「身近な薬物のはなし」

1 本書の概要

薬物の専門家が身近な薬物の依存症について説明した本です。

特に詳しく取り上げた薬物はこれ。

1 酒(アルコール)

2 カフェイン

3 タバコ

薬物のイメージとは違ってました。

普通は、覚醒剤だとか大麻だとか、合成麻薬だとかを想像すると思います。

筆者がいうには、依存症として影響が大きのは、この3つだそうです。

どんな影響があるのでしょうか。

2 酒(アルコール)

酒は百薬の長。

というのはウソで、体にはよくないとのこと。

そういうことが近年明らかになってきました。

人類と酒の歴史は長く、自然発酵したものから始まったそうです。

原初、樹上で暮らしていた人類は、木登りもエサ取りも上手ではありませんでした。

その結果、悪くなった木の実を食べることになります。

すこし悪くなった、だけど食べられる木の実。

これが発酵した木の実でして、つまりはアルコールを含んでいた。

これが酒と人類の出会いではないかと考えられています。

アルコールを分解できる酵素を人類は持つことができました。

それで、これを栄養としても使うことができるようになった。

しかも保存もきく。

長所が多かったわけです。

しかし、ご存知の通りアルコールには認識力や判断力を低下させる作用があります。

他人と付き合う上で、過度の警戒心を解く効果がある一方、自らの防御をおろそかにさせる。

そういう両刃の効果があったのでした。

アルコールには依存傾向があります。

過度のものは中毒になりますが、そうでなくとも繰り返し摂取したくなる傾向がある。

なので、人間はほどほどの摂取を推奨したり、あるいは禁止したりしました。

禁酒といえばアメリカが有名ですが、様々な国で施行されたことがあったとのこと。

しかし、どれも長続きしませんでした。

アルコールに中毒性には勝てなかったのです。

粗悪品による健康被害や闇売買による治安の悪化。

結局は、税金をかけて購入を適度に困難にすると同時に、国家財政に寄与させる。

そういうことでコントロールしてきたのでした。

人類に悪影響を与えた薬物としてアルコールはチャンピオン。

筆者はそういいます。

確かに広範囲に広がっていること、健康被害その他の生じさせること。

そういうことを考えると、そう判断されても仕方ないのかもしれません。

3 カフェイン(茶、コーヒー)

カフェインも人類に影響を与え続けている薬物と筆者はいいます。

ただし、この薬物は異質です。

アルコールを始め、精神に影響を与える薬物の多くはその能力を低下させる。

判断力を低下させるものがほとんどです。

しかし、カフェインは違います。

カフェインは脳を覚醒させます。

脳の能力を高めるのです。

これが、他と一線を画す点です。

カフェインも古代から知られていた薬物ですが、普及したのは大航海以降。

人類がこれまで以上に頭脳労働を必要するようになってからです。

頭脳労働で成果を上げることで、他者をだしぬく。

そういうことが可能になった時代に普及したのです。

かのアヘン戦争も、よくよく考えれば、茶(カフェイン)の代金を捻出するために起こしたもの。

そう考えると、カフェインの中毒性は相当なものである。

と、筆者は主張します。

確かに、カフェインを常用する人は、それを中毒とは考えていないでしょうが、相当な数に昇ります。

筆者は、昔からあるかぜ薬等にカフェインが入っていることも、少し疑っています。

その薬効は注意事項に書いてある通りではありますが、その一方で再び購入してもらう効果を期待しているのではないか、と。

そうだとすると、ちょっと怖いことではあります。

カフェインも多量に摂取すれば健康被害を引き起こします。

まあ、常識はずれの摂取量にはなりますけど。

そういう意味で、アルコールに次いで普及している薬物である、という判断も根拠があるといえるでしょう。

4 タバコ

筆者は喫煙者です。

なので、タバコについては本書の最終に記載されていました。

あんまり書きたくなかったのでしょう。

酒、カフェイン、タバコ(ニコチン)。

普通に考えたら、タバコが一番害がありそうです。

肺がんとかね。

でも、筆者はそれを薄めて書いています。

常用者だからでしょう。

タバコはアメリカ大陸原産で、現地では儀式に使うのが一般で常用していなかった。

という説もあるようですが、筆者は常用していたと考えています。

ニコチンは、抹消血管の収縮させ、判断を鈍らせる。

そういう効果に常用性があると考えます。

しかし、酒やカフェインと違い、現代においてタバコはまったく推奨されていません。

片隅に追いやられています。

もうしわけ程度に設置されている喫煙コーナーを見ればよくわかりますね。

しかし、酒同様禁止にはできない。

できないというか、すると社会的によくない影響が出てくる。

闇売買とかね。

つまりはどうしてもやめられない。

そういう薬物なのだとか。

まあ、わかるのですが、筆者この項目はずいぶん手加減して書いているような気がします。

現代、タバコの害は改めて主張するほどのことでもないということでしょう。

5 総評

★★★★

4つかなあ。

おもしろいし、興味深い知識が得られる本です。

ただ、表題を見てもっと危険な薬物についての話と期待していましたが、取り上げらていたのは、身近も身近、その辺にあるものでした。

そういう意味で、肩透かし感はあります。

アルコール、カフェイン、ニコチン。

確かに薬物ですが、一般に薬物として思い浮かべるものかというと。

ちょっと違いますね。

科学読本として見れば、とても効果のある一冊だと思います。

まあ「身近」の定義にもよるのでしょうけど、自分にとっては期待していたものとは違いました。

おもしろくて一気に読んでしまいましたけどね。