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【ネタバレ書評】池井戸潤「ルーズヴェルト・ゲーム」

1 概要

池井戸潤さんが社会人スポーツを描いた小説です。

ルーズヴェルト・ゲームとは8対7の試合のこと。

アメリカ大統領フランクリン・ルーズヴェルトが一番おもしろい得点といったのだそうです。

野球でこんなに得点が入ることは、あまりありません。

シーソーゲームがおもしろかったのでしょうか。

ピッチャーはお互いに3人ぐらいずつは使っていそうです。

まあ確かに、点が入らないよりは入った方がおもしろいのですけれども。

さて、小説の方は派手な得点を取り合うという感じではなく、固く固く守ってチャンスを待つという感じでした。

2 社会人チームの悲哀

本書は、リーマンショック直後の不況が背景になっています。

どこの会社も赤字にならないようがんばっていた頃です。

そんな中で社会人スポーツは、どのように社員に映るか。

予想通り、ぜいたく品ですね。

野球部の維持に年間約3億円がかかるのだそうです。

リストラを進めている会社では、3億円は大きい。

担当の総務部長は日々頭をかかえていました。

そして、チームの中には正社員もいるし契約社員もいる。

野球ができなくなっても会社に残れるのが正社員。

すぐにやめなければあならないのが契約社員

ここでも非情な現実があります。

先に言ってしまうと、本書の野球部は廃部になります。

都大会に優勝し、都代表となりながら。

宿敵のチームに勝ちながら。

それが社会人チームといわれれば、それまでなのですが。

3 野球で現れる人生観

仕事としての勝負は勝ってなんぼ。

敗者には何も与えられない。

そういわれればそれまでなのですが、野球をすることでその人の人生観、人間というものが現れるような気がします。

本書でそれが一番現れていたのが、ライバルチームの監督です。

この監督、主人公のチームの監督だったのですが、ライバルチームに引き抜かれたのでした。

そして、引き抜かれた際にエースと4番を連れていくということもしました。

もう何ていうか、勝ちゃいいそのままです。

そして、自分の古巣チームのスキャンダルを流す。

何でもありです。

こうしてまで勝ちたい。

そんな人物として描かれています。

ここまでではないにしろ、勝利にこだわりすぎると見てて嫌になることはあります。

少年野球に関わったことがあるのですが、こんな監督がいました。

勝つチームの監督です。

でも、打てない少年にはバットを振らせません。

四球ねらいです。

少年野球のピッチャーはコントロールが定まらないの普通。

そして塁に出したら盗塁です。

相手のエラーをさそって得点をします。

これって、勝っても野球の楽しさを感じるのでしょうか。

負けても全然悔しくない試合じゃないでしょうか。

こんなの普通にあるんです。

柔道が少年の全国大会やめましたね。

勝利至上主義はよくないということで。

わかるような気がします。

本書のライバルチームの監督は、極端に描いているんでしょうけど、まったく共感をよばない人物像になっていました。

でも、実在しそうな気がする人物です。

嫌ですけどね。

4 社長と社会人スポーツ

社長の設定がおもしろいと思いました。

途中入社で、元コンサルタント

リストラと効率化をせまられている日々。

合理的に考えれば、野球部は廃部するしかない。

なのに、野球部の存続をどこかで願っている。

とても人間くさい悩みを抱えている人です。

ライバル会社との合併を提案されて悩みました。

会社は倒産することはなくなります。

しかし、ほぼ吸収合併に近い形態なので、社員が冷や飯を食わされるのは確定路線。

どうしたものかと考えます。

結局、この合併は断るのですが、どうにも明かりが見えない毎日。

試合を参観したことで、野球部には社員をまとめる力があることを知ります。

つまり、お金に換算できない価値を見いだします。

しかし、銀行から融資を受けるには、野球部をやめないといけません。

とうとう決断をします。

この社長、ほんとうにいいなと思いました。

結果だけみれば、悩まなくともその選択しかなかったことはわかります。

しかし、同じ結論に達するにしても、様々な観点から考えることで、真に必要な理由を見いだそうとしていました。

中途入社なのに、会社と社員をすごく大切にしている。

こんな社長の下で働きたいと思いました。

5 総評

野球があまり出てこない野球小説。

でも、しっかりと読み応えのある作品となっているところが筆者のすごさです。

池井戸さん高校スポーツの小説を書いても、十分いけるのではないかと思いました。

野球を通して人生を表す小説でしたが、青春を表す小説も読みたいと思いました。

もちろん作者は池井戸潤さんで。