前川喜平さんと寺脇研さんの対談本の感想の続きです。
この本では,弱者の教育について多く語られています。
エリート校の教育については,ほとんどふれていません。
二人とも東大法学部出身で,上級国家公務員でした。
そこが何ともおもしろかったです。
取り上げられたいくつかのことについて感想を述べます。
まず特別支援学級在籍者の高校進学の問題です。
ご存じの通り,特別支援学校には高等部があります。
ですから,特別支援学校在籍者はその意思があれば高校に進学できます。
しかし,特別支援学級在籍者は,定員に空きがあれば特別支援学校高等部に進学できますが,そうでなければ普通学級の子供と受験競争をして高校に進学することになります。
誰が考えても不利なことは明白です。
どうしても進学したいとなれば私学もありますが,経費は高くなるでしょう。
授業料無償化でも,いろいろとかかるものです。
さて,どうしてこういう制度になっているのでしょう。
知的障害者が高校進学をするという考えが一般的じゃなかったからとのことでした。
それで,現在では徐々に改革されているとのことです。
高校卒業に資格のような質を持たせようという習得主義の考えは,ここでは問題にもされません。
そこにあるのは学習権の保障と生涯学習の理念です。
障害があっても学びたい人には学ばせる。
学習機会を奪うことはできない。
なるほどと思いつつ,高校とはなんだろう?という思いももちました。
18歳まで誰でも学校で学べるという制度はよいと思います。
そうであれば,小・中・高などと学校を分ける意味はあるのだろうか。
そんな思いにとらわれました。
児童養護施設を卒業した子供の話も弱者救済の視点から語られました。
児童養護施設は,元々は親を亡くした子供のために施設でした。
現在は,虐待とかネグレクトとかまともな世話をしない親をもつ子供たちが多く利用しています。
児童養護施設にいられるのは18歳までです。
その後は,自立して生活しなければならない。
このため主に経済的な理由から大学進学をしない子供が多いそうです。
このような子を支援する制度が必要と話されていました。
確かにかわいそうです。
実際,親がいる子も多いので,そこまで面倒をみてやらなくとも,という意見も確かにあるでしょう。
また,奨学金制度もあるにはあります。
でも,進学する能力があるのに,自分の境遇からあきらめる子がいるとしたら社会の損失だと思います。
確かに何とかしてあげたいです。
一方,両親と暮らしていてもやはり経済的理由で進学しない子もいるわけで,制度として整備すると難しさがありますね。
いくらなんでも大学全入は施設的に難しいでしょうから。
他にも朝鮮学校やLGBTなどについても取り上げられていました。
最近の文部科学省は,学力テストだの学力向上だのと変に成果主義にとらわれている印象でしたので意外でした。
学ぼうとする者を助けるための役所。
そのようにこの二人は考えているようでした。
そうはいってもこの二人の理想とする教育制度は,多くの日本人にとって理想とはなっていないように思います。
個人的体験を超えた教育論をもっと多くの人が語れるようになったら,状況は変わるかもしれません。
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