1 本作の概要
中年に差しかかった男が長年認めてこなかった恋心を認める話です。
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村上春樹さんの作品は、読者を選びます。
あの独特の雰囲気が好きな人には替えるものはありません。
しかし、あの雰囲気が苦手な人にはとにかく離れたいと思う。
そういう作家です。
本作はとても短い作品で100ページ足らずです。
途中、すてきな挿絵が入っていて絵本仕立てになっています。
それでもわたしには読みにくかった。
「ノルウェイの森」以来の村上作品でしたが、印象は変わりませんでした。
2 人生の彷徨
本作の主人公の行動原理は「ノルウェイの森」とほぼ同じでした。
村上ファンの方には違いがわかるのかもしれませんけど、わたしには同じです。
本当にしたいことがわからず、日々を刹那的に生きて、特に努力をするわけでもなく、しかしなぜか特定の異性には好かれて、自分自身がしたいことを探し求める。
そして、他人に対して攻撃的ではないが、真に他人を助けるということはなく、たいていは家族等に対して冷淡である。
そうして、なぜか収入に困ることもなく人生を彷徨している。
そんな主人公です。
どこか漱石の高等遊民にも似ているのですが、まあ、漱石の主人公は自分で結論を出すことが多いので、そこが決定的に違います。
本作の主人公には、大学の同級生に惹かれている女性と親友がいます。
親友が惹かれている女性と結婚するのですが、付き合う際に相談されても止めるわけでもなく、投げやりになるだけです。
その親友と女性に子供ができるのですが、その後離婚します。
離婚後、その女性と友人関係を続けていましたが、娘に決定的な場面を見られて、ついに決意し結婚します。
まあ、そういう話なんです。
わたしは漱石の主人公に親近感を持ちますが、村上の主人公には持ちません。
嫌悪感とまではいかないのですが、好きな人物でないことは確かです。
そういう人の人生の彷徨。
どうでもいいっていえば、どうでもいいという感じです。
3 阪神・淡路大震災
本作には、震災を踏まえた人間の生き方みたいな解説もありました。
主人公の出身地が西宮市という設定です。
しかし、主人公は震災当時、東京の大学生で、直接の被災はありません。
家族の見舞いに行った程度です。
この主人公に震災がそこまで大きな影響を与えているとは思えません。
作者はどうして震災とリンクさせたのでしょう。
リンクさせる必然性がまったく読み取れませんでした。
たぶん震災がなくても、主人公の行動って変わってないと思います。
4 熊の絵本
本作にガジェットとして取り上げられていることがもう一つあります。
熊の絵本です。
主人公が彼女の娘に読み聞かせている本です。
まあ、蜂蜜とりが上手なしゃべる熊や鮭を取るのが上手な熊が出てきて、それぞれ主人公や親友を暗示しているような感じになってます。
そして、鮭が取れなくなった後、みんなで蜂蜜パイを作るようになるみたいなお話なんです。
でもね。
本作に人間の真実が描かれていないように、この絵本も何かの価値を暗示しているというわけではありません。
そこに、人生のヒントなんてないんです。
「チーズはどこへ消えた?」風の寓話にしたかったのかなあ。
だとすれば、成功していないようですね。
主人公がこの絵本からインスピレーションを受けるわけでもないですし。
う〜ん。
題名にもなってるガジェットなんですが。
5 総評
★☆☆☆☆
なんか、飲み屋でこんな話をされたら
「へえ、そうなんですか」
「いろいろ考えられたんですね」
「人は見かけによりませんね」
「そんななれそめだったんですかあ」
といった相槌を打ちつつ、帰りの電車で何聞いたか忘れてそうです。
覚えていても、誰かにその話をすることはないでしょう。
いや、噂話をしない、するな、みたいなことじゃなくてですね。
誰も興味を持たないだろうからしないという、そんな感じ。
ファン向けの本なんだろうな、と思いました。