1 本作の概要
少し変わった家庭で育った少年が中年になってようやく家族を手に入れる話です。
本作は2017年に書き下ろしで発表され、2026年に映画化されています。
題名を解題しますと、架空の犬とは主人公が心の中に飼っている犬で、嘘をつく猫とは主人公のことです。
主人公の名字が羽猫というので、それにかけているのでしょう。
優しさゆえに嘘をつく主人公と、その主人公が心の拠り所としている心の中にだけいる犬。
そういう少年が大人になるまでの過程を描いた作品です。
1988年から2018年までの30年間の話なのですが、象徴的な出来事7つを取り上げて描いているのでお話自体はコンパクトにまとまっている感じです。
映画向きな小説じゃない気がするんですが、どう映画化したんでしょうね。
まずは家族構成から紹介していきましょう。
2 変わった家族
「この家にはまともな大人がいない」
という表現で本作は始まります。
どうまともではないか。
小学生の子どもが参観日の案内を手渡すことを躊躇するくらいまともではないようです。
祖父…内装屋を経営してるが、夢のような新規事業を立ち上げてはつぶすことを繰り返している。
祖母…比較的まともだが、何を売っているかわからない雑貨屋を経営している。
父…年上の浮気相手のところに入り浸りで仕事はほぼしない。
母…溺愛する3番め子どもを亡くしてから精神に変調をきたしている。
ここに、姉弟兄弟暮らしていて、弟が主人公。
弟は、死んだ弟のふりをして母に手紙を出しています。
母が死んだ弟を生きていると思い込み、探し歩いているためです。
死んだ弟は親戚の家に預けられているという設定にして。
「嘘をつく猫」とはこのことです。
嘘が嫌いな姉はこのことを非難していますが、主人公はやめません。
よいことをしているつもりでも100%母親を思ってのことでもないようですが、やめられないようです。
本人は自己評価が高くないようですが、かなりの人格者です。
本作を主人公の成長の物語と紹介しずらいのは、小学生から中年になるまで主人公の高潔な人柄が変わるところはなく、ゆるぎないからです。
ある種、時間軸に沿って旅するロードムービーのようでもありますね。
3 母親の存在
この家族は元々変で、なにかがあったから変になったわけではなさそうなんですが、それでも変になったきっかけらしいことは設定されています。
それが下の子の事故死です。
4歳で防火水槽に落ちて亡くなりました。
最も影響を受けたのが母親です。
食卓に死んだ子のご飯を用意したり、外に迎えに出たりします。
まだ生きていると考えているのです。
このことをフォローしようとしない義理の祖父と見守り続ける義理の祖母。
妻から逃げて愛人宅に入り浸る夫。
そんな母に現実を突きつける姉と、母に寄り添おうとする弟。
そんな感じで(よく崩壊しないな)というバランスを保ちつつ物語は進行していきました。
母の内面が描かれることはなく進んでいくのですが、主人公が弟のふりをして書く最後の手紙のくだりで、母の内面が描写されました。
母は子どもを愛せないタイプでした。
姉と主人公を育てたことは苦痛だったようです。
最後の子ができた時も嫌な気持ちが先だったようですが、生まれたら可愛すぎて溺愛してしまったようです。
それで死を受け入れられなかったのですが、実は手紙を書いていたのが主人公だったことは気づいていたようでした。
それを主人公の愛情として受け入れることはできず、自分をあざ笑っていると感じていたのでした。
控えめで義実家のために身を惜しまない嫁だったようですが、内面は行動よりもドロドロしていたようです。
この気持ちは主人公には伝わっていないのですが、もし伝わっていたとしても主人公の行動は変わらなかったように思います。
そういう人も受けいるような人ですから。
4 家族写真
主人公が30代後半になったころ、父から家族で遊園地にいこうと誘われました。
この遊園地の様子が大団円で、この家族がいわゆる幸せな家族になったことを象徴していました。
家族仲良くというのは難しいものだと感じる一方、父・母・姉の成長をじっと待っていた主人公みたいな感じを受けて、この人たちどうなんだろう?という感じも湧いてきます。
家族写真を撮るシーンで終わるのですが、母は亡くした子の写真を持ちますし、姉は主人公の奥さんにいっしょに映るよう話しますから、過去と未来とそれぞれの家族の思いが交錯していたようにも思えます。
みんながくつろげる家族になったというは本当なので、これはこれでいいのでしょう。
主人公によれば、この家族は現実ではないなにか(つまり「嘘」)を拠り所にして生きてきた人たちです。
主人公にとってのそれは「心の中にいる犬」です。
その人たちは「嘘」を現実よりも大切にしてきたのですが、ここにきて「嘘」と同じくらい現実を大切にするようになった。
そう主人公はとらえているようです。
でもまあ主人公は、最初から現実も大切にしていたように思えるのですけれど。
5 総評
★★★☆☆
3つかな。
家族が家族になる話なんですけど、群像劇にならず主人公視点で話が進んでいく。
それはいいとして、主人公の魂が高潔過ぎて、よくぞまあこの家族の中でと感心するとともに、あまりに精神性が高すぎて共感できないというか。
そんな感じです。
課題を持つそれぞれの登場人物をよく描ききっているところはさすがと感心します。
こういう小説って、(人間ってこうだよなあ)という業を描いていたりするんですが、本作そこまででもないというか。
そこは軽いんですね。
なさけない父の内面とか、子どもを亡くす前の献身的な母の内面とかから迫ることもできたように思えます。
ボリューム的にそこまで描けなかったのかもしれません。
