子どものころは,探検や冒険が大好きです。
日常とは違う何かを求めたくなるからでしょう。
今回は,千葉省三さんの「鷹の巣とり」とスティーヴン・キングさんの「スタンド・バイ・ミー」を比べながら感想をお話します。
1 「鷹の巣とり」の冒険心
このお話は,かつて小学校4年の教科書に載っていました。
鷹が近くの山の大木に巣を作ったので見に行こう。
そんなお話です。
「とり」とはいうものの,ひなや玉子をとるわけでもなさそうです。
ましてや親鷹をとるわけではないでしょう。
小学生が鷹が巣を実際に見てやろうと思って出かけた,というぐらいだと思います。
いろいろあって,最後は木から落下してしまった友達を背負って帰ってくるところでお話は終わります。
少年の一時期に成立する無邪気な友情を描いたお話と受け取れます。
懐かしき少年時代といった感じです。
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2 スタンド・バイ・ミーの雰囲気
映画にもなったスティーヴン・キングさん「スタンド・バイ・ミー」も少年たちの探検の話です。
しかし,探したのは死体でした。
さすがホラー小説の第一人者です。
見つけてヒーローになろう,という動機には少年らしさを感じますが。
このように探索という題材は同じなのですが,先の物語とは雰囲気がかなり違います。
全体的に暗い感じがするのです。
それは,ホラー小説の名手が書いているからというわけではありません。
この小説は,語り手である初老の男が少年時代を振り返る形で述べられています。
少年時代の思い出はキラキラと輝いています。
しかし,同行した友達たちのその後の人生を重い口調で話すのです。
そのことがこの雰囲気を作っているのだと思います。
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3 かけがえのない少年時代
私のころも,小学校の友人関係はさわやかなものでした。
屈託なく後くされもなく,けんかをしても後を引かない。
明日の不安もなく,その日を存分楽しむ。
そんな感じでした。
人生の中で,最も輝いていたころといえます。
そんな楽しく過ごした友達は,今どうしているでしょう。
みなさんの中には,まだつき合っているという方もいることでしょう。
私は日常的に交流している人は一人もいません。
学校が変わり,就職で旅立ち,自分も故郷を一時離れていました。
気づけば誰もいないのです。
スタンド・バイ・ミーの主人公は,友人たちのその後を知っているだけ私よりよいといえるでしょう。
私は,何も知らず知ろうともしていません。
ただ,私にもあった美しい少年時代が記憶の中に残っているだけです。
「鷹の巣とり」は誰にでもあった美しい時代を表現しました。
「スタンド・バイ・ミー」その思い出を抱える初老の人生も描きました。
その点,後者は読者の感性に一歩踏み込んでいるともいえます。
「鷹の巣とり」を無邪気に楽しんで読んだ少年は,初老となった時に同じようには読めなくなっているのではないでしょうか。
年齢や立場が変われば,読み方は変わります。
そういうことを実感をもって感じさせる物語や小説であると思います。
それにしても,少年時代はすてきです。
戻れるものなら戻りたいなあ。