相変わらずカウンセリング関係の書籍を読んでいます。
最近,実用的な本を中心に読んでいたので,少し離れてみようかと思いました。
カウンセリングの実際を知るには,実用的なものがいいのですけれど,少し視野を広げるのもいいかなと思ったのです。
それで選んだのが河合隼雄さんの本です。
「こころと人生」
そう題されていました。
1 講演録
この本は,講演かな講義かな,とにかくお話したものの記録です。
河合さんは30数年も大阪の四天王寺でカウンセリング講座を開いていたそうです。
この本も,それらの講義の記録の一つです。
とはいっても1回の講義の記録ではありません。
多くの講義の中から,ライフステージにかかわるものを集めて構成し1冊としたのです。
子ども,青年,中年,老い,この4つでまとめられています。
それぞれで,次のことが印象に残りました。
2 子ども・青年
子どもについての話はあまり興味を引きませんでした。
未熟といわれている子どもの見方に真理や本質が隠れている。
世間ずれした大人が見落としがちなことを子どもが再確認させてくれる。
こういう見方はもはや陳腐で,いわば見たくないものや既に気づいていることを子どもを矢面に立てて語っている,自らの責任で語る勇気をもてないばかりに。
とこういう感じがするのです。
もちろん,陳腐になるくらい一般的になったこの見方のオリジナルが河合さんなのかもしれず,そうだとしたら相当偉大な方だと思うのですが。
一方,青年についての話はとても興味深かったです。
青年期は一様ではない。
こういう当たり前のことの意義を再確認しました。
つまり,青雲の志をもって挑戦する青年,全力で取り組んだが成果が得られず挫折した青年,恵まれているように外からは見えるが無気力な青年,いつまでも子どものように権利と責任をはき違えている青年,このように青年も青年期も多様であって,それぞれに意味や背景がある。
そんなことを改めて考えさせられました。
大人,かつて青年だった大人は自分が経験したことをもって青年を理解したつもりでいるかもしれないが,実は全然理解できない青年もそこに存在している。
そういうことに気づかないことは,とても危険なことである。
つまり分かったつもりではなく青年の話に耳を傾けるべきなのだ。
このことの大切さを感じました。
青年期を題材とした小説その他はあまりに多く,それだけ典型化が受け手の精神の中で進んでいるように思えます。
3 中年・老い
私は中高年でこの段階にさしかかっています。
心理学で中年期は話題になることが多くありません。
それは安定しているからです。
子どもは変化が大きくそれゆえ発達心理学として多く研究されました。
青年は疾風怒濤の時期であり,その不安定な心理の在りようについて研究がなされました。
老年期は幼児期の反対で,何かができなくなる過程の研究がなされました。
中年期は,安定しているがゆえに研究対象として魅力的ではなかった。
このように語られます。
しかし,中年期には危機があると河合さんはいいます。
一見,人生順調で問題なさそうな人に危機が近づいていると。
中年は太陽でいえば正午を過ぎに日没に向かっていくような時期です。
いかに生きるかではなく,いかに死ぬかという問題に直面する。
そういう危機だというのです。
そうして,危機を乗り越えた先に大きな成長がある。
そういうのです。
しかし,これは分かるような気がします。
私にとっては,このブログを始めたことがこのことに直結しているように思えます。
つまり,定年を前に充実した人生を探りたいという心情が自分の人生の意義を確かめたいという内面の表れではないかと。
なるほどなあ,危機だったのか。
そんな風に自分を見つめることができました。
老いの段階は,さらに死を意識した段階となるのだそうです。
まだ実感はわきませんが,きっとそうなのだろうと思います。
4 カウンセリングにどう生かすのか
と,この本は示唆に富んだ本でした。
人生について,改めて考え直す視点をいただくことができました。
とはいえ,これをカウンセリングにどう生かすか。
これについては一般的な教養以上のものを得てはいません。
四天王寺で直接聞いていた方々はどうだったのかなあ。
このことを考えることが,カウンセリングに深みを与えるのでしょうか。
そういう疑問が残りました。
しかし,そういうことも含めてこれは読む価値のある本でした。
少なくとも私にとっては。
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