ギスカブログ

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【ネタバレ書評】新庄耕「地面師たちファイナル・ベッツ」

1 本作の概要

詐欺師が活躍するサスペンス小説です。

本作は続編で、1作目も本ブログで紹介してます。

gisukajika.hatenablog.com

前作は、ネットフリックスでドラマ化されました。

大変好評でした。

本作もこれに合わせて発表されたのでしょう。

さて、地面師とは他人の土地を売ってしまう詐欺師です。

もちろん架空取引ですから、権利は移動しません。

お金をだまし取られるだけです。

しかも巨額の。

だまされる相手は、投資家や不動産会社です。

つまりは専門家。

そんな人たちが、こんな大きな取引に引っかかるのか?

あるんですね。

ほんとに引っかかって、巨額のお金をだまし取られています。

現実にもある。

そういう点も、人気を増す要素になっているのでしょう。

2 詐欺の舞

北海道の土地が舞台でした。

北海道に投資になるようなところあるの?

そんな疑問が湧きましたが、どうやら政治がらみの案件でした。

しかも、今回は2段構えです。

最初は苫小牧。

ここでIRが始まるということで、土地の高騰が見込める。

これが背景です。

IRは総合リゾート開発なんてうたってますけど、結局カジノづくりです。

地方競馬が下火な今、そんなのつくってもどうなのでしょう。

という気もしますが、やる気の人は大勢いまして。

大阪でも万博との兼ね合いで話題になってますよね。

いいところを題材としたなあ。

と思ったらこれがあっという間にポシャります。

反対派が選挙に勝って、知事になりました。

それですぐ計画中止とはならないでしょうが、投資する気持ちは冷えます。

小説どう展開するんだろう?

と思ったら、別の政治案件をもってきました。

北極海航路です。

北極海で東アジアとヨーロッパをつなぐ。

実現すれば、ハブ港周辺は開発の嵐。

それで投資家をつのる。

よく思いつくなあと感心しきり。

これにより舞台が釧路に移りました。

しかも、北海道選出のあの議員がモデルの人物も出て、胡散臭さ満載です。

3 だまされる人の心理

胡散臭いものを、なぜ人は信じるのか。

それは、人間は信じたいものを信じるから。

詐欺の中心人物がこんなことをいってました。

真実だと思います。

こんな人、普段の生活でたくさん出会いますもの。

さて、今回だまされる人は、二代目社長候補。

父親の社長からは能力を見限られている。

そんな人物です。

つまりは、承認欲求のかたまりです。

そして、一発逆転をねらっている。

自分が有能であることを示したい。

そんな思いに駆られてます。

人生で一発逆転をねらうほど追い詰められている人は、確率の低さを問題としません

そりゃそうだと思います。

このままじゃ負け確定なんだから何だって使いたい。

そうなるに決まってます。

ですが、それは敗北ロードなわけで。

まあ加えてこのだまされた人、色仕掛けでも落ちてるのですが、詐欺に引っかかった後、当然のごとく捨てられていました。

そりゃ父親にも見限られるよなあ。

こういう印象をいただかせるように人物を作り上げる腕前。

新庄さんさすがです。

4 エンタメ性振り切り

本作、ギャンブルと暴力、金と性というエンタメ要素満載です。

そういう本能的な世界を知的犯罪者が生き抜いていく。

こういうダークヒーローを描いているんですね。

ただ、本作の主人公、ハリソン山中は共感できる人物ではありません。

ひたすら嫌悪感を喚起するような人物です。

仁義も倫理もなく、自分が計画した犯罪を貫徹する男。

そんな感じです。

まあ、そのため読者の共感を呼ぶような登場人物が2人配置されています。

一人は元サッカー選手の稲田、ばくち狂い。

山中を追う女刑事佐藤。

それぞれがいい持ち味を出して、読者の共感を引き出しています。

山中は非人間過ぎて、ちょっと共感できませんからね。

勝負の興奮にしか生きられない人と、人情と正義に生きる女性。

ハリソンに振り回される等身大の人間が克明に描かれています。

5 総評

★★★★

4つです。

おもしろかったんですけど、展開に意外性が少なかったように感じました。

まあ、意外といえば活躍しそうなキャラが、あっけなく死んだりとかそういうのはありましたけど。

王道といえば王道なんだと思います。

それと、1作目に比べると「地面師」が少なかったような感じがしました。

ハリソンが寄せ集めたはみ出し者が犯罪をしている。

そんな感じで、人の土地を売るプロの仕事って感じは薄まったように思いました。

とはいえ、ページをめくるのが楽しい1冊であることは間違いありません。

これ次作もあるような感じで終わりましたので、そういう意味の「最後の賭け」ではなかったようです。

次作もぜひ読みたいですね。