今日,職場で方言が話題になりました。
○○知ってる?知らない,など,ちょっと明るい話題でした。
方言を知っているとダサい印象を持つかもしれません。
しかし,私は方言にはちがったイメージを持っています。
1 意外だった語源
私は海沿いの出身です。
子供のころから小舟に乗せられて海に出ていました。
その時,よくこんな言葉を聞きました。
「ごすたんだ,ごすたん!」
船をバックさせる時に飛び交った言葉です。
とにかく,船を後ろ方向に進めればよいということは分かりました。
まあ,その通りしないと,叱られますしね。
変な響きの言葉だなあ,と思っていました。
似ている言葉もありませんし。
この言葉の語源,というか元々の意味を知ったのは高校生になってからです。
Go astern.(ゴー アスターン)
英語だったのです。
いやあ,英語とはなんの関わりもなさそうな海のおっさんたちの言葉だったのに。
ほんとう,驚きました。
おそらく,遠洋漁業で行った外地の港や航路で飛び交っていた言葉だったのでしょう。
響きがよく,使いやすく,状況にもピタッとはまっていた。
こんなことで定着したのだと思います。
ちなみに前進させる時は,Go ahead.です。
これをゴーヘと,海の荒くれ者たちは言っていました。
ポップスの曲にも使われる英語ですが,とても同じ言葉と思えません。
海の男が使っている生の言葉を聞かせたいです。
残念なことに,これらの言葉は漁師から消え失せつつあります。
遠洋漁協が衰退したので。
ところで,私はこれも方言だと思っています。
2 すごさを表す言葉
超だったり,めっちゃだったり,鬼だったり。
すごさを表す言葉は,数年ごとにころころ変わります。
若者言葉と呼ばれたりします。
この変わり方の速さの理由は,何となく想像できます。
あなたが想像できないくらいすごいんだよ。
そう伝えたい時に,かつてあった言葉を使うとすごさが伝わらない感じがするのでしょう。
想像を超えるすごさなのに,よく知っている表現を使うと,前にもあったみたいな感じになるのだと思います。
なので,新しい表現がどんどん生み出されていく。
そんな感じなのだと思います。
まあ,言葉がすごいと本物はたいしたことないんじゃないか,そう考えたりもしますけどね。
さて,私はこれも方言だと思っています。
3 方言は生活語
ゴスタンやすごさを表す言葉は,表したい認識をピタッと表すことができる言葉ができた状態だと思うのです。
方言もこれと同じことなのではないかと。
ある状況をとらえた認識を表す言葉ができ,それがイメージを喚起する力が強いとき,一定の集団で共有される。
言葉が生まれるのは,そういう時だと思います。
方言もそうなのでしょう。
ある集団で,ある認識を喚起する力強い言葉なのだと思います。
方言がなくなるのは,そういった生活が変わってしまったり,そういった認識が共有できなくなってしまったりした時なのでしょう。
つまり,母体が消えたから言葉も消えた。
そういうことなのだと思います。
4 言葉は生まれ消えていく
いろいろな状況に当てはまる言葉や助詞など語の関係を表す言葉は長く残ります。
一方で,使い方や生活に密着し,その状況を強くイメージさせる言葉は,状況が変われば消えていきます。
イメージを喚起する力が強い言葉は陳腐化が速い,ともいえるでしょう。
方言の話を聞いていて,そんなことを思いました。
イメージが固定された言葉は,言葉のアルバムに貼り付けられたようなものかもしれません。
私にとってゴスタンは,夏の強い日差しと潮の香りを運んでくる言葉でもあります。