1 はじめに
若い頃,恋愛小説は年をとったら読まないのだろうと思ってました。
でも,中年になっても初老になっても恋愛小説を読んでました。
人をワクワクさせる何かがあるのでしょう。
今回は「半分の月がのぼる空」について話します。
2 キャラクターの造形について
よく恋愛小説についてこんな感想が話されます。
これヒロインが美人じゃなかったら成立しないだろ。
まあ,それはいわぬが花的な批判なので聞き流してもいいんですが,確かにそういう面はあります。
というか,最初に主人公がヒロインのどこに惹かれるかが問題でして,たいていの場合ルックスだったりするわけです。
で,このパターンが多いのは,批判されても説得力があるからです。
というわけで,この小説のヒロインも美人でございます。
美人で性格もいいと,だいたい小説にならないので,いくばくかの欠点があります。
このヒロインの場合は性格と不治の病です。
性格については,直接のトラブルの原因として描かれます。
そして病気の方は,底流を流れる暗い調べのようにずっとつきまといます。
正直にいうと,私はこのヒロインに魅力を感じませんでした。
かわいそうだとは思いましたけど。
おそらく,彼女を許せる人は好きになるんでしょう。
まあ,嫌いじゃないけどそんなにはって感じです。
一方,彼女に惹かれる主人公は魅力的でした。
私は,愚直で不器用な人に共感する傾向が強いと思います。
わきの甘さにも共感するんですね。
まあ,こういう主人公もテンプレートだと思うんですけど,なんか理屈じゃないんですね。
好きって感覚は。
主人公がヒロインに惹かれていくのも,そういう理屈じゃないところがあったんだと思います。
3 幸せに亡くなるという考え
この小説の作家ではないんですが,悲劇的な少女を主人公にした小説の作家がこんな話をしていました。
うろ覚えなので正確ではありません。
こういう話の主人公は,どうやって幸せに死なせるかということが問題であって…。
読んだときは,あっそれが前提なんだと思いました。
でも,小説の登場人物だけじゃなくて,私たち全員がどういう風に幸せに死ぬかが問題なのだとは思います。
こうなると幸せの在り方について考えざるを得ませんね。
何が幸せなのか。
これです。
この小説のヒロインは,まあお亡くなりにはならないんですけど,幸せな結末を得たとは思います。
恋愛小説なんだから恋が実ればいいんでしょ。
そんな身もふたもない話ではなくて,実り方が大切なんでしょう。
亡くなる場合を考えると恋愛が成就しても先がないんだよなあ。
そんな風にも思うわけです。
だからこその実り方なわけですね。
その実り方も世間の認識じゃなくて,本人の実感なんですね。
そういうその人独特の個性ある幸せをどう描くか,どう共感させるか。
ここがこういう小説の興味深いところだと思います。
4 最後に
この小説は8巻まであります。
この後,7冊続くわけです。
全部読みましたが,一番印象に残っているのは最初の1巻でした。
残りは,まあ連作もののほとんどがそうであるように,作品の雰囲気とか登場人物がお気に入りとか,そういうので好まれるのだと思います。
おもしろそうだと感じた方はお読みください。
時代を感じる描写はありますが,おもしろい小説だと思います。
コミカル仕立てでもありますし。