1 本作の概要
首相爆殺の濡れ衣を着せられた主人公の逃亡劇です。
ケネディ暗殺にヒントを得て発想したのだとか。
首相公選制とカメラによる監視システムが成立した日本が舞台です。
主人公が逃げ回る街は仙台。
わたしは土地勘があるので、どこをどう行っているかがわかってすごくおもしろかったです。
本作は2008年の本屋大賞を受賞しており、文句なしにおもしろい作品です。
2 本作の構成
錯時法とでもいった方がよいのでしょうか?
時間が行ったり来たりしていてわかりにくい構成になってます。
主人公の大学生時代、事件、事件後。
大きく分けるとこんな感じです。
それが前後して描かれるので、ちょっと戸惑うところもありました。
メインはもちろん事件。
すなわち、爆殺から2日間の逃亡が中心になっています。
事件の直前に20年後の話が載っています。
これは、客観的に事件後の登場人物のその後を解説した部分です。
事件について不可解さと事件の社会的評価を両立させるための手法なのでしょう。
不可解さ不透明さを強調するかのように、関係者の多くが鬼籍に入っています。
しかし、普通にエピローグとして、最後に載せてもよかったかもしれません。
3 逃走劇
主人公は、何もわからぬまま逃亡生活に突入しました。
しかし、幸運なことに開始直前にヒントを与えられます。
最初の関係者が大学時代の友人だったからです。
しかし、この幸運も続きません。
主人公は、捕まりそうな逃げ方を選択してばかりいるからです。
まず、知人宅を訪ねる。
ネットカフェを使う。
知人と携帯電話で連絡する。
警察が待ち構える知人宅を再訪する。
追ってが手掛かりとしそうなところを次々と利用しています。
これじゃ自分から捕まりに行っているようなものです。
実際、捕まりました。
しかし幸運なことに、おもしろがって助けてくれた人がいたのです。
連続殺人犯です。
ちょっと最悪な展開ですが、彼がいなかったらすぐ終了でした。
その後も、以心伝心のように昔のポンコツのバッテリーを替えてくれていた元カノとか、逃走ルートのヒントをくれた入院患者とかがいなかったらアウトでした。
臨場感あふれる筆力で読まされますが、この主人公はかなりラッキーです。
どう考えても「オズワルド」になっていたことでしょう。
4 陰謀論
本作は陰謀に巻き込まれた人を描いた作品ですが、ちょっと陰謀論が気になりました。
本作での警察は、国家権力の手先で法も無視した暴力装置として描かれています。
これは陰謀論を信じる人の「警察」です。
本作はこれが前提なんですが、通常は陰謀論なんて思い込みの激しい人が信じているもの、という認識でしょう。
なので、娯楽作品として楽しむのはいいのですが、陰謀論を信じている人はこういう世界観なんだというのが少しこわくなりました。
ケネディ暗殺を疑っている人って、どこまで考えているんでしょう?
人間がこわくなります。
5 総評
本作はアクションものですね。
伊坂幸太郎さんの作品というと、サスペンスものが多かった印象です。
しかし、本作は謎は「陰謀」の一言で全部すんでしまうので、アクションを楽しむというのが王道だと思います。
そういう点では、とてもおもしろい小説でした。
傑作です。
未読の方は、早く読んだ方がいいですよ。
人生が豊かになることでしょう。