若いころ好きだったミュージシャン亡くなるのは悲しいものです。
そのミュージシャンは自分より年上なのだから当たり前です。
でも,同時に自分の若いころも遠くにいってしまったように感じてしまいます。
そんなミュージシャンの一人,ゲイリー・ムーアについて話します。
1 マシンガン・ピッキング
ゲイリー・ムーアは売れないミュージシャンでした。
少なくとも80年代はそうです。
本国イギリスやアメリカでも知る人ぞ知るって感じだったのです。
日本では「大いなる野望」と訳されたアルバムで,ロック・ギタリスト界隈で人気が出ました。
まあ,一般人気ではありません。
当時はMTVの全盛です。
ゲイリーのビデオなんて,見たらラッキーぐらいの頻度でした。
さて,その人気が出たギターはどんな感じだったのか。
荒々しい早弾きです。
スピードは確かに一級品でした。
当時は,ですけど。
6連符のシークエンスをアタック強く弾く。
そんな感じでした。
テレビでその弾き方を見た時は,衝撃的でした。
何がって。
素人くさいエルボー弾きだったからです。
短音ピッキングは,手首から先で弾く。
それが王道です。
そんなの知らんって感じで,ひじを大きく動かして弾く。
荒々しいというか乱暴な感じです。
一方,雑音は出ていないので,これはこれで結果オーライな感じです。
当時雑誌では,これをマシンガン・ピッキングと称していました。
まあ,語感はぴったりだと思います。
ゲイリーのカバーをする人は多いのですが,この弾き方をまねている人はいません。
ゲイリーフォロワーというゲイリーに影響を受けた次世代ギタリストも多いのですが,弾き方は受け継いでいません。
みんな,いいとは思ってなかったのでしょう。
しかし,ゲイリーの曲で私が好きだったのは,このころの曲です。
オーソドックスなハード・ロック。
それがよかったのです。
2 泣きのギター
その後,ゲイリーは「泣きのギター」と呼ばれるようになりました。
特に日本ではそうなんですが,哀愁のあるメロディーが好まれます。
そういう旋律をギターで弾くと,メロディックでいいと評価されます。
他にもいるのですが,ゲイリーもその一人として評価されたのです。
当時の私には???でした。
そんなギターを弾く人は他にもいます。
多いくらいです。
なんならもっと得意な人もいます。
なかなか売れないゲイリーの個性付けだったのかもしれません。
ゲイリーよりも早く正確に弾く新世代ギタリストも多く出てきていましたから。
そんな中,アメリカでゲイリーの曲がヒットしました。
「スティル・ガット・ザ・ブルース」という曲です。
ブルースです。
といっても,かなりポップよりで聞きやすいですが。
これでゲイリーはハードロックから離れ,ブルースに近づいていきました。
売れたからいいのですが,何かちがうミュージシャンになってしまったように感じました。
私はゲイリーへの興味を失ってしまい,あまり聞かなくなっていきました。
3 ゲイリーが亡くなってから
ゲイリーが亡くなってもう10年くらいになります。
亡くなったことを知った時,かなりの衝撃を受けました。
一方,雑誌等で取り上げられはしましたが,大きくはなかったことからそんなに人気はないんだと改めて実感しました。
ことプロのロック・ギタリストでいえば,エディやシェンカー並にフォロワーが多かったのに。
今ゲイリーのアルバムでよく聞くのは,ブルース時代のものです。
私が加齢とともに,好む音楽性が変わったということもあるのでしょう。
ブルースにはなりきれずポップな歌い方,激しい弾き方をしてしまうゲイリー。
ブルースの有名曲を演奏しながら,どこかブルースそのものではないゲイリー。
こんなにギターは巧みなのに,ミュージシャンの生き方としては不器用だったゲイリー。
そんなことをつい考えてしまうから聞くのかもしれません。
ブルースの曲が元々もっている苦みとは少しちがう苦みをどうしても感じてしまうのです。
一方的な思い込みかもしれませんけど。
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