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読書感想「協力がつくる社会」

 人間は利己的か、互助的か、がテーマの本です。

 ホッブズリヴァイアサンを一方の極において議論を進めます。

 有名なあのフレーズです。

 「万人は万人に対して狼」

 そういう状態を極端な例として挙げています。

 そして、現代の経営論では、そのような人を動かすには、報酬と罰が有効とされているといいます。

 アメとムチ。

 珍しいものではありません。

 そして、その反対の極に助け合い、協力、互恵関係を置きます。

 その例として、ボランティアで運営されるネット上のサービスを挙げます。

 ウィキペディアリナックスのようなものです。

 そして、人間は協力できない存在ではない、他人のために行動できる存在であるという論を進めます。

 決して狼ではないと。

 この主張には、人間に対する肯定的な見方があります。

 それは心地よいもので、否定しようという気は起きにくいでしょう。

 私もどちらかといえば、人間が他人を助ける存在であると思っています。

 ただ、訳者後書きで指摘されているように、議論の精度が甘い部分はあると思います。

 何をもって協力というか、です。

 協力といいながら功利的動機があるものもあるのじゃないか。

 そういう議論です。

 この手の議論は定義の問題のような気もします。

 さて、この人間の見方というのは古い議論であって昔からありました。

 つまり、性善説性悪説です。

 それを現代的に焼き直しただけではないか。

 そういわれても仕方がないというか、まあ実際そうなっています。

 アメとムチによる人間操縦術も、いわば信賞必罰、古代中国から議論されていることです。

 商鞅がこの策によって富国強兵を成し遂げ、秦の礎を築いたといわれています。

 まあ、それによって商鞅自身は悲劇的結末を迎え、秦帝国も瓦解するのですから、信賞必罰の限界は、みんな分かっていたのです。

 なにも、ネットワーク社会とか囚人のジレンマとかトヨタカイゼンとかを持ち出さなくとも、人類は経験してきたのだから、分かっているはずなんです。

 信賞必罰による社会システムは、目標達成の効率化を目指しているだけであって、目標を達成に尽力した人を幸せにはしないのです。

 つまり、どうしてもやむを得ず取るべき緊急事態の策であって、常時それで運営するのは無理があるし、しだいに効率も悪くなるのは当然というものです。

 こういうことが分かっていたから、あまり厳格に適用してこなかったのです。

 かといって協力だけで社会は維持できるのでしょうか。

 協力はふわっとしたシステムだし、本書でも指摘されているように、悪意のある人がいると崩れるシステムです。

 全面的に信用はできません。

 史記風にいってみれば、法三章徳治主義はいってみるのみ。

 こういうことです。

 協力にはそんな限界があることもみんな分かっているのです。

 だからこそ、その中間で私たちは世の中や組織を作っている。

 それが現実です。

 わたしたちはどこかで、全面的には信じられない他人をそれでもよい人にちがいないと信じながら生きている。

 そういうものだと思います。

 こういう白黒つけられない事象に、ああだこうだと事実を並べて議論することは嫌いではありませんが、読んでいて新しい発見はあまり感じませんでした。

 ただこの問題は、現代でも人の興味を引き続けるのだなあと思います。

 といろいろ書いてきましたが、本書が読む価値がないかといえば、そんなことはありません。

 事例も豊富で読みやすいし、人間に対する肯定的な見方ができるので前向きな気持ちが強くなります。

 読む価値は十分にある本だと思います。

 殺伐とした人間関係に疲れている人に、ゆっくりじっくり読んでほしい本です。

 ほんと、お勧めします。