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【書評】雨穴「変な地図」

1 本作の概要

雨穴さんの新作ミステリー、建築士の栗原さんの冒険です。

出版されてから5ヶ月あまり経ってしまいました。

ちょっと遅めの書評です。

どんな内容かは、雨穴さんの動画もあるので、こちらを視聴するとよいかもしれません。

www.youtube.comコミカルで最高です。

本書は栗原さんの伝記、というよりは栗原さんがきれいに謎を解いたという自慢話みたいなものです。

今までの「変な〜」シリーズは、「こんな変な〜がありました。あなたは意味がわかりますか」という壮大なクイズのようでした。

しかし、本作はそれらと一線を画す本格ミステリー。

とても読み応えのある作品でした。

2 地図の変さと本作の謎

この地図の変さとは、今までの「変な絵」「変な家」の変さとはちがってます。

以前の変さとは違和感とそうなっている理由が主なものでした。

この地図は、全体的な変さです。

山に妖怪がいる。

女の人が山に向かっている。

石碑やお宮がある。

そういう地図です。

どこかが変というわけではありません。

この地図全体が何を表しているかがわからない。

そういう変さです。

なので、今までのように絵や家の「変な」理由を探していくという話にはなっていないのです。

つまり、これは地図をきっかけとしてもっと大きな謎に挑む、という話になっているのでした。

その謎とは、地図を持って自殺した祖母の動機です。

3 相棒となった女性警官

これまでの「変な〜」シリーズは、雨穴さんが主人公。

解決のために電話で栗原さんに相談する。

主なパターンはこうでした。

今回の主人公は栗原さん。

栗原さんは無愛想で他人と協同することが苦手。

というわけで、基本一人で行動します。

しかし、それでは話が進みません。

今回、相棒として女性警官が出てきました。

と言っても、警官らしさがまったくありません。

明るくて行動的ですが、深く考えるところがありません。

つまり、栗原さんの真反対です。

なので、栗原さんのたりないところを補っています。

いい配役だと思います。

ちなみに栗原さんが大学生の頃のお話ですので、二人が恋愛関係に発展する可能性もあったと思います。

思いますが、そこは栗原さん。

まったくその気がないのでした。

おまけ動画で公開されているのですが、この点を雨穴さんに「結婚できませんよ」とツッコまれていました。

実は、この女性警官は栗原さんの遠い親戚で、祖先がどちらも変な地図にある集落出身なんです。

同じ血筋でここまで違う性格になるのか。

という驚きもありましたね。

5 完全犯罪と罪の意識

さて、おばあさんの自殺の動機です。

簡単にいえば贖罪です。

ですが、罪と罰のバランスを考えるとどうなんでしょう。

おばあさんの計画は、様々な要因が組み合わさり、おばあさんの想定の通りになった時にはじめて成功するようなものです。

結果そうなったとしても、偶然の要素が大きすぎて主たる要因をおばあさんに帰するのは難しい。

そう感じました。

まあ、自分のせいと考えるのは、自分の心理が大きな要素を占めるので、他人がどうこう言っても仕方がないでしょう。

こう書くと、本作のトリックが拙いような印象を受けるかもしれません。

そんなことはないです。

今までの「変な〜」シリーズと比較して、すごくよく考えられていたと思います。

雨穴さんのミステリー作家としての力量は、かなり高いと思います。

ところで、このおばあさんの犯罪ですが、栗原さんに知られたとはいえ、バレることはないと思います。

事故と判断されていますし、実際に事故です。

そして、事故があったことを別の人物が隠蔽している。

この隠蔽におばあさんはまったく関わっていないし、関われるはずもない。

なのでバレることもないし、先に述べたように主な原因とされる可能性も極めて低い。

ある種、完全犯罪なんですね。

栗原さんによって、すべてが明らかにされた後も、(自殺することはなかったんじゃないかなあ)という思いは消えませんでした。

6 総評

★★★★★

おすすめです!

雨穴さんのこれまでの本を読んだことがない人にもすすめられます。

というか、そういう人にこそすすめたい!

上質のサスペンス小説になっています。

それでも難点をあえてあげると、ホラー小説ではないかもしれない、という点かな。

閉鎖的な集落を舞台とはしていますが、そこに得体のしれない恐怖というものは感じませんでした。

怖くないホラーを目指している雨穴さんとしては、これでいいのかもしれません。

しかし、これまでの「変な〜」シリーズにあった何気ない不気味さというものが薄まっている感じはします。

まあ、これはあえてなので、一つの作品として見れば問題ということでもないでしょう。

まだの方は、どうぞご一読を。