1 本作の概要
独立独歩の女子が身の回りの問題を解決していく小説です。
本作は全3冊のシリーズの2作めです。
1作目の「成瀬は天下を取りにいく」が本屋大賞を受賞しています。
たまたま2作目を紹介していますが、偶然読んだのが本作だったので、2作目が特にいいとか、そういう理由はありません。
読み始めて(どこかで読んだことある雰囲気だな)と感じました。
なんとあの「平安部」の作者の作品だったのです。
登場人物の年齢も似ているし、なるほどという感じでした。
2 キャラクター小説
本作は短編集で構成されています。
一つ一つが何かしらの問題を主人公の「成瀬あかり」が解決していくという物語。
つまりは、成瀬の活躍を描いているわけで、何かしらの事件が中心ではありません。
その意味で、まごうことなきキャラクター小説です。
では、主人公成瀬とは、どのようなキャラクターか。
なかなか魅力的なキャラクターとなっています。
女子高生(途中から大学生)なのに口調が常体、しかも言い切り。無表情。
学力は高く、信念で行動し、情緒には流されない。
他人に助力を頼むことはあっても、頼ることはしない。つまり、主体性のかたまり。
地域を愛し、地域振興のために行動する。
地域愛はともかくとして、よくいる「わたし、周囲に合わせてばかりで、自分のしたいことができない。本当のわたしって何」的な悩みをもつ若者の理想の存在みたいな人物です。
人気の出る要素がたくさん含まれているわけです。
3 他人から見た理想の人物
本作の描き方の特徴として、視点を登場人物以外に置く、というのがあります。
つまり、誰かから見た成瀬を描くというわけです。
本作でいうと、小学生から見た成瀬、家族から見た成瀬、同僚から見た成瀬、幼馴染から見た成瀬という具合。
なぜこういうことになっているかというと、理由は2つ考えられます。
1つは、読者の共感を得るため。
想定される読者は、強い意志をもって生きる人に憧れている人です。
なので、読み手をその視点に置くと共感度が高まるというわけです。
もう1つは、理想の人にミステリアスさを持たせるため。
成瀬視点で物語を語ってしまうと(どうしてこの人はこんなに強いのだろう?どうしてこんな行動ができるのだろう?)という疑問がすぐに解決してしまうわけです。
成瀬のようになりたい読者としては、成瀬の秘密を知りたいわけで、語り手としてはそれを少しずつ明らかにしていくという、ミステリの手法が使えるわけです。
そうすることで、読書意欲の継続も図れると。
こういうわけでしょう。
つまり、本作は「成瀬のような楽しい経験をしたい」という読者ではなく、「どうしたら成瀬のような生き方ができるのだろう」という読者を想定しているので、この視点が有効に働いているのです。
4 巻き込まれ型の人生
さて、本作で成瀬が取り組んでいる事柄は、正直にいえばたいした問題ではありません。
日常の出来事です。
しかし、その日常の出来事は、よいと思う方法で解決できないのが一般人。
成瀬が際立てば際立つほど、一般人のなさけなさも際立ってくる。
こういう構図があります。
では、一般人も主体的に行動すればいいかというとできないのが一般人。
そこで、一般人はどう考えるか。
だれかに引っ張ってもらえないだろうか。
そう考えるわけです。
なので、成瀬に巻き込まれながら行動することを「仕方なく」選択していくとなるのです。
ある程度、自分が責任を負わないようにして、利益は享受したい。
するいといえばそうですが、庶民感覚というのはそういうものです。
そして、成瀬はそういう人物を批判しない、眼中にない。
ここも一般人には安心なのです。
本作では、成瀬は失敗をしないのですが、成瀬が挫折した時に一般人はどう感じるのでしょう。
同情するのでしょうか。
それ見たことかと突き放すのでしょうか。
こんな残酷な選択を、本作は読者に提示したりはしないのですが。
5 総評
★★★★★
おもしろかったです。
話のテンポもいいし、読後感もさわやか。
成瀬というキャラクターも魅力的です。
本屋大賞をとったのもわかるなあ。
成瀬をヒーローと見るか、珍獣と見るか。
あるいは、所詮作り話と見るか。
それは読者に委ねられています。
こういう自分の生き方を少し刺激する小説というものを、少なくともわたしは好んでいます。
