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【ネタバレ書評】森バジル「探偵小石は恋しない」

1 本作の概要

本格探偵に憧れる浮気調査探偵のお話です。

最近の推理小説は、事件を提示して、探偵が操作して、推理を披露して、真犯人逮捕、といった典型的なスタイルを踏まないんですね。

本作もそんな感じ。

ちょっとキャラクター小説っぽくなってます。

わたしがいうキャラクター小説というのは、個性豊かなキャラクターが活躍するお話。

見事な構成とか、目新しい対象とか、そういうので読ませるのではなく、登場人物のファンに向けて書いている小説。

そういうのをキャラクター小説と呼んでいます。

本作の主人公である探偵小石も特殊な属性をもっている人物。

なので、本作もキャラクター小説っぽいのです。

2 小石という探偵の属性

では、小石という探偵はどういう属性をもっているか。

3つも属性があります。

1 恋愛感情が見える

小石さんは誰が誰を好きなのかが見えます。

ある人物を見ると、その人から伸びている矢印が見える。

矢印が伸びている先がその人物が好きな人。

こういう感じです。

浮気調査探偵としては、替えがたい能力をもっているのです。

本人は恋愛調査が嫌いなので、猫に小判になっていますが。

2 血を見ると失神して記憶をなくす

記憶障害もちなんですね。

なので、過去の事柄も血がからんでいるとまったく覚えていない。

どんなに親しくしていた人も血がからんでいると思い出せなくなる。

犯罪探偵としては致命的欠点なのでした。

3 情報機器音痴

スマホ、パソコンその他これに類したものが使えません。

ある意味、現代社会では感覚器を一つ失っている感じ。

それで調査を生業とする探偵をしているというギャップ。

推理特化型といえば、聞こえはいいですけどね。

3 実はキャラクター小説に非ず

とまあ、属性てんこ盛りでして、この不思議能力を活用するライトノベル風なのかなと考えると思うのですが、さにあらず。

ライトノベル系じゃないんですね。

というのもこの属性は、それがもたらす新たな世界を表現するというSF的な設定の鍵とかじゃありません。

もっと小さな役割しか与えられていないんです。

それはなにか。

この属性は、単なる事件の条件なんですね。

そう、これは推理小説

事件が起きれば、それを解くために条件(証拠とかね)が提示されます。

小石さんの属性は、事件の条件の一部。

一部といっても大きな影響をもちますが、それでも一部。

つまりは、ダイイングメッセージとか凶器とかアリバイとか、そういうのと等価。

なんかつまんないでしょ。

せっかくおもしろそうな属性なのに、事件を構成する条件だなんて。

本作の第一章を読んだときはシリーズ物かと思ったんですが、シリーズにはなり得ないのでした。

属性は、事件が解決すれば役割は終了。

なので、キャラクター小説になるはずもないのです。

4 叙述トリックもどき

本作では、叙述トリックといっていいのかやや疑問ではありますが、書きぶりによって読者を混乱させようとしている箇所があります。

それが、登場人物の異同。

主要人物の多くが両親の離婚しているんですね。

なので、名字(つまりは作中の呼ばれ方)が以前と異なる人物が複数います。

別人物かと思いきや同一人物でした。

なんてことががあります。

なんでこんなことしてるのかというと、まあ読者を最後まで惹きつけるためなんでしょう。

なんでしょうけど、わたしは一人目はともかく二人目以降はしらけちゃいましたね。

そうですか…って感じ。

このことで、登場人物が高校時代に知り合っていたのに、社会人になって初めて会いましたみたいな感じで交流している、という感じをつくっているんです。

いやいや。

顔を知ってるんだから、そんなわけないやろ。

とツッコミたくなるでしょう。

そのために記憶喪失ですよ。

血を見ると、それに関わることをすべて忘れるという属性。

それがここで生きるわけです。

いやいや。

そんな属性を付与してまで、同一人物を別人と認識させたいんかい。

と思うのももっともで、わたしもそう思います。

つまり、事件の謎があまりに人工的で、詰将棋でいったら「そんな駒の配置、実戦で現れることないやろ」的なんです。

虚構である小説にそんな野暮なこといったらアカンのは知ってますが、ちょっと言いたくなります。

5 二重解決

雨穴さんの「変な家」でもやってましたが、最近のミステリーは種明かしを2回するのが流行りなんでしょうか。

どういうことかというと、事件を名探偵が「犯人はお前だ」的に解決しますね。

その後、名探偵が「あれでよかったのか?」的な反省をして、もう一度、真の真犯人を見出すという。

こんな感じです。

作品に重みが増すのかもしれませんが、どうも好きになれません。

エピローグで余韻を残すをマシマシにした感じで、胃がもたれるといいますか。

本作もそんな感じ。

真犯人というか、犯人を操っていたやつがいたというか。

なんですけど、これが解決しても大円団って感じじゃないんですよ。

終わりましたか、と事務的に受け止めたというか、そんな感じ。

まあ、事件の解決とは別に、小石さんが恋愛感情を取り戻して、そういう意味でも作品的には大団円って感じで終わっています。

いますが、読後感がねえ。

すっきりしないんじゃなくて、作品に対して冷めていくっていうか。

そんな感じなんです。

6 総評

★★★☆☆

つまんなくはないですよ。

ただ、作者性が強く出てるっていうかなんというか。

こういうだましをしてやろうという意図が透けてるというか。

透けてもいいんですよ、楽しければ。

だからつまり、これは「わたしには楽しめなかった」ってだけなのかもしれません。

正直な読後感は、「これならキャラクターに個性をもたせて存分に活躍させた方がよかったかも」です。

名探偵って、みんないいキャラクターじゃないですか。

ホームズもポアロ金田一も、コロンボだって。

いろいろ書きましたが、要は作品に没入できなかったということです。

人に「これどう?」って聞かれたら、「悪くないよ」と答える。

そんな感じです。

あと、「こいしはこいしない」っていうタイトルも、なんかなあ…