1 本作の概要
2007年公開のアニメ映画です。
今さら18年前の映画を批評しようと思ったのは、なぜか。
Tverで、今(2025.10.31)公開されているんですね。
tver.jp実写映画が公開されたので、そのキャンペーンでしょう。
もちろん、すでに見ているのですが、実写映画を見た上で、改めてどんな作品だったのか振り返ってみようと思いました。
2 桜花抄
中学1年男子の主人公貴樹が小学卒業と同時に転校していった女子明里に会いに行く話。
抄は短くまとめたって意味でしょうか、抄本とか文学界隈でよく使われる字です。
章題「桜花抄」は造語だと思います。
明里が来年も一緒に桜を見たいと言っていたことから、いろいろな思い出や思いはあるけど桜花に関わることを短くまとめましたってことかな。
改めて見ると、この二人の関係は共依存っぽいなあと思いました。
周囲になじめない転校生が傷を舐め合ってるような。
特に貴樹側がそんな感じ。
自分が守らないとみたいな。
当人にとってはいい思い出なんでしょうけど、本当に相手を個人として認識しているのかなあ。
すでにこの時点で、実在の相手と観念上の相手が分離しているように思えます。
その他、設定に突っ込まざる得なくなりました。
貴樹が明里に会いに行く場面です。
中1だからねえ、で納得はできるんですけど、まあいくら何でもねえという。
その設定とは、再会に向かった貴樹の乗る列車が雪で遅延するところです。
そもそも、東京で会った方が楽だし、栃木に行くなら新幹線使った方が楽だし、埼玉あたりで落ち合ってもいいし。
という計画段階でのツッコミ。
それから、遅延なら電話連絡で予定変更した方がいいし、2007年では天気予報が精緻になってるから大雪警報が出てるし、大体中学生女子を夜遅い駅舎に放っておく親なんかいないし。
という当日の設定へのツッコミ。
明里、一晩家に帰ってないので、中1の親なら捜査依頼案件ですよ。
仮に連絡したとしても、迎えに行くでしょ。
品行方正な中1女子ですよ。
なんかなあ。
二人だけの深夜に桜の木の下でファーストキスってのは、ロマンチックでいいんですが。
見直してよかったのは、二人共本心を記したであろう手紙を渡していないこと。
この手紙を交換していたら、おそらく貴樹は後々初恋感情に捕らわれていないと思います。
つまり、ここでバッドエンドの種は蒔かれていたわけですね。
いずれにしろ、ローティーンの純真な恋、稚拙な行動力で構成されたエピソードなわけです。
でも、貴樹が理解している明里は、実在の明里本人とはずれている感じが伝わってきました。
3 コスモナウト
コスモナウトとは宇宙飛行士のことだそうです。
ロシア語だそうで、ロシア語にした意味は多分あんまりないです。
さて、舞台は貴樹が転校していった種子島での話。
高校3年生になっています。
視点は変わりまして、貴樹に恋する女子高生花苗から見た高校生活になっています。
この女子純真で奥手で、進路よりも自分の恋に振り回されるタイプ。
こんな一途な女の子がいたらなあっていう感じの女子高生です。
みんな共感するし助けたい人なんだけど、多分生活力はないから家族とかだったら困るかな。
恋愛だけで人間生きられませんから。
劇中、家族は温かく見守ってましたけど。
わたしも花苗さんは大好きで、この話が秒速エピソードで一番好きです。
青春ドラマっぽいし。
なんですけど、花苗視点から描かれる貴樹はやっぱり異常です。
外面はクールでスマートで優しいのですが、知れば知るほど何かに執着していることが明らかになってくる。
執着している対象は、自分が守らなければならない明里です。
なんですけど、もう手紙もメールも交換していない。
貴樹も気づいているはずなんです。
実際の明里は、もう貴樹を必要としていないことに。
そして、自分が執着しているのは、そういう実際の明里ではないことに。
自分の思いも冷えてしまっていることにも。
だけど、なぜか中1の思いを捨てきれないんですね。
捨てようとしてはいるらしいんですけど。
貴樹は孤独に旅する宇宙探査機を自分に重ね合わせます。
想像を絶する長期間、何にも出会わず旅する宇宙探査機。
自分も孤独の闇を何に出会うという希望もなく旅していると。
コスモナウトであると。
まあ、高校生っぽいといえばそうなんですが、自己憐憫が過ぎますね。
これ他人に言っていないのは救いです。
言ったらもう完全完璧に黒歴史になりますから。
この第2話で、このアニメは初恋に病んだ男の話と化します。
花苗視点で良かったですよね、貴樹視点だったら鬱々で耐えられなかったと思います。
花苗さんの初恋の思い出はよかったと思います。
貴樹と結ばれない方が、幸せだったと思います。
現実の等身大の貴樹は、あなたが思っている人間じゃないです。
あなたは幸せになるべき人ですし。
3 秒速5センチメートル
第3話の表題は、作品名と同じ。
29歳の会社員、貴樹の話です。
ここの視点は、第3者視点よりになってます。
貴樹は、コンピュータープログラマで、付き合っている人もいますが、その人に本質を見抜かれ別れます。
そうなりますよ。
花苗さんも付き合ったらこうなってるんで、ホント付き合わなくてよかった。
それで、小学校通学路、思い出の踏切ですれ違った人が明里ではないかと立ち止まります。
列車通過後、そこには誰もいませんでした。
いやまあ、そこで待っている明里がいるとしたら、それは貴樹の脳内で作り上げた明里であって、実際の本人じゃないでしょう。
そもそも、そうなら高校時代の連絡も途切れてないし、多分会いにも行ってるだろうし。
旅費くらい親も出してくれたと思いますよ、転勤ばかりで悪いとも思ってるでしょうし。
バイトしても大丈夫でしょう。
そういうことをしてない積み重ねがあるわけだから、いるはずがない。
必然なんです。
で、29歳でようやく自分の立ち位置に気づく、というか気づいていたんだけどそれをようやく認める。
そういう話になってます。
4 総評
★★★☆☆
難しいなあ。
でも3つかな。
音楽と映像が美しいし、初恋という誰もが経験する淡い思い出を題材としてるし、弱い男に共感する気持ちもあります。
でも、このテーマは人間の一面の真実を表しているとは思うのですが、そんなに価値のある一面とはいえない。
というのがわたしの考え。
それを、精神の成長とまとめるか、執着心の恐ろしさとまとめるか。
そういう多面性があるのです。
気に入っているのは、花苗さんの純真さなので、それはテーマではないですしね。
人間のきれいではない一面をきれいな映像で見せられた。
そんな感じです。
でも、見る価値はあると思いますよ。
作者が作りたいものを作ったという情念を強く感じる作品でした。
