1 本作と原作
新海監督のアニメ映画「秒速5センチメートル」の実写映画です。
新海監督のアニメ映画は、2007年の公開、それから18年後の実写映画化。
「君の名は」で新海監督が著名になったので、再び取り上げられたのかなあ。
大作ではないけれども、叙情的な佳作です。
元のアニメ映画のファンだったので、何かよからぬ改変がされていなかいかという、実写映画化にありがちな嫌な予感はしていたのですが、そこはやはりファン。
いそいそと映画館に行きました。
2 原作の構成
本作は原作を知らない人が見ても楽しめると思います。
しっかりとわかりやすい構成になっていました。
ですが、より本作の特長を知るには原作の構成を知っておいた方がよいと思います。
なので、盛大なネタバレになるのですが、まずは原作の構成を説明します。
原作は、3部構成です。
第1部は、主人公の小・中学生の話。
主人公と仲良しの女子がいました。
とても親しくなるのですが、女子は卒業と同時に栃木へ転校します。
文通をしていたのですが、主人公も種子島へ転向することになり、最後に会うことにしました。
主人公は栃木へJRで向かうのですが雪のため遅延、かなり遅れて到着します。
駅舎で待っていた女子と出会い、納屋のようなところで一晩過ごします。
その後、再開を誓って別れます。
第二部は種子島の話。
主人公は、女子と続けていた文通やメールが途切れています。
女子へのメールを書いては消しを繰り返しています。
主人公へ片思いをする種子島の女子高生が現れます。
この子はなかなか思いを打ち上げられずにいますが、機会を得て打ち明けようとします。
その時、彼がまったく自分を見ていないことに気づき、ついに打ち明けられませんでした。
主人公は東京の大学に進学します。
第3部は、主人公が社会人になってからの話。
主人公は付き合っていた同僚と別れます。
同僚から自分を見ていないと告げられて。
そして、自分の半生を振り返りながら歩いていると、小学生時代の通学路の踏切を渡ります。
そこで、幼馴染の女子とすれ違ったような感じ、確かめようと踏切が開くまで待ちます。
しかし、電車が通り過ぎた後には、誰もいないのでした。
というのが原作の構成です。
時間順に3話のオムニバスになっています。
第3部はほぼ山崎まさよしのミュージック・ビデオのようで短いのですが、叙情たっぷりに主人公の心情を描いています。
3 原作をどう捉えるか
さて、原作をどう捉えるかですが、まあ初恋に囚われて新しい恋人関係が築けない男の話ってのが多数派だと思うのですね。
なので、この主人公に憧れている人はあんまり多くないんじゃないかと思います。
特に男は。
でも、陰があってミステリアスに見えるからなのか、どうもモテるのです。
同性から見ると、いつまでもうじうじしてんなよと言いたくなるんですが、女性から見ると、どうなんでしょうか。
では、本作で人気ある登場人物は誰か?
それは、種子島の女の子です。
けっこう前向きで一途なので、人気があるのですね。
けっこう不器用で、それが実物大の高校生っぽいのです。
幸せになってほしい人なんですが、彼女の恋愛は成就する見込みがないんですね。
相手が囚われ人なんで。
それに、彼女が主人公だと、ただの恋愛小説になってしまうので、そうなるとこの話が凡百の青春小説になってしまいます。
特色が薄れてしまう。
主人公の立場に立つと、初恋の人とうまくいってほしいという気持ちになります。
それが叶うかもという場面が最後にあります。
小学校の頃の思い出の踏切で主人公と幼馴染がすれ違う場面です。
ここで再会すれば、ハッピーエンド!
ということを視聴者が期待するような展開になっているのですが、そうはなりません。
ここは主人公が現実と向き合う場面であって、そういう展開は決してないというダメ押しの場面でした。
第3部で流れている山崎まさよしの「One more time〜」が、いなくなった彼女を探す歌詞になっているから、そういう雰囲気が否応なく高まります。
でも、この歌は元々違う映画の挿入歌で、亡くなった恋人を思う歌ですから、まあなんといいますか、最初から期待するなよという演出なのかもしれません。
本作で主人公と幼馴染がくっつくのは、いわば「ごんぎつね」で最後にごんが助かって兵十と和解するということを期待するようなもので、それだと読者のフラストレーションはなくなるでしょうが、作品の芸術性は薄まるという、そんな感じです。
十数年かけて初恋の失恋を乗り越える話というのが正しく、この歯切れ悪さや女々しさに、男ってそういうもんだよねって共感する話なのです。
そして、こうであったらいいのにといつまでも振り返ることが多いわたしも、こういう話が好きなのでした。
ただ、名作ではないんですよね個人的には。
それでも好きな話という佳作枠に入るというか。
4 実写化という翻案
映画の実写化は鬼門です。
なぜか知りませんが、監督や脚本家がオリジナリティを出そうとするんですね。
映画に限らずいろいろなジャンルで起きてまして、ノベライズの全然違う作品になってたりします。
宮崎駿さんもそうで、「未来少年コナン」なんか原作とまったく別物です。
「君たちはどう生きるか」もそうでしたね。
設定だけ借りて別物作るなら、最初から別物作ればいいのに。
というのが先立つのですが、本作はどうでしょうか。
原作リスペクトがすばらしい!
構成を替えていますし、原作にない設定を入れてはいますが、ほぼ原作を生かしていました。
アニメ映画のファンの方、安心してください。
3部構成はなくなり、第3部の時間軸から過去を思い出すような展開でしたが、見事に構成していました。
あとですね。
初恋の女子がいい人になっていました。
まあいい人だったんでしょうけど、その要素を強めにしたというか。
高畑充希さんが、すごくすごくよい演技をしていたというか。

いい意味で印象が変わりましたね。
原作との違いは、最後の最後まで独身かと誤解させていたところかなあ。
原作と違う結末を迎えるのかなと思ってましたね。
結局は同じ結末だったんですが。
それと種子島の女の子も未練を断ち切っていたというか。
それもよかったように感じました。
森七菜さんもいい演技していたなあ。

本作の役者、いい人ばかりでした。
5 総評
★★★★★
これは超おすすめでした。
アクションはないし、ドキドキする場面は少ないし、謎を解くわけでもない。
ですが、次の展開が気になって飽きない。
佳作です。
原作同様、00年代に時代設定をしたのもいいです。
あの頃って、こんな雰囲気でした。
ただ、主人公みたいになりたいかっていうと。
それは0でしたね。