1 本書の概要
中高生向けの思想解説本です。
橋爪さんといえば、ポスト構造主義の解説書とかアメリカの政治思想とかを書いていた印象がありますが、本書は江戸思想。
仏教は鎌倉以降に見るもの少ないですから。
それにしても似合わない感じがします。
江戸の思想って、所詮、佐幕か尊王に収斂される気がして、眠れなくなるほど興味がわくかっていうと、そうでもないって感じなんですが。
わたしは高校で世界史を選択したくらい日本史には詳しくないし興味も低いです。
このジャンルの知識にいたっては、ほぼなし。
そんなわたしだからこそ何か得られるのではないか。
いくばくかの教養になればとページをめくりました。
2 思想家としての水戸光圀
取り上げられている思想家は王道な感じです。
でも、冒頭に取り上げたのが水戸光圀。
ここが意外な感じでした。
水戸学の創始者としてということです。
でもまあ、思想家ではないよねえ。
それにしても水戸学ですか。
狂信的な原理主義を生み出したぐらいのイメージです。
桜田門外の変とかね。
勤王なんでしょうけど、ならば武家が権力を簒奪している現状をどう思っているのか。
たいして変わらんでしょう。
というところがわたしの評価減ポイントですが。
光圀は伯夷叔斉伝に感銘したとあります。
自分と似た境遇なのに、家督を譲り真理に生きた義人がいたということで。
ホントかな?
なんだろう。
いいけど、殷本紀とか太白世家とかは読まなかったのかな。
家督譲る話は他にもあります。
そして伯夷のとらえ方、なんかずれてないですか。
天道是か非かといって司馬遷は自己弁護にこの話を使ってますけどそれはともかく、伯夷らを有能と評価する人は少ないと思います。
それに、光圀は伯夷じゃなく中子の立場でしょう。
家督を譲られたんだから。
わたしはこのエピソード読んでしらけましたね。
これ史記読んでいない高校生とか信じちゃいますよね、光圀ってこんなことに感動した人なんだって。
まあ光圀がそう感じたかどうかは一次史料を知らないので保留にしときますが、伯夷叔斉を誤解しているとは思いますよ。
高校生には、読み下しか直訳でいいから史記を読んだ方がいいですよ、よっぽどためになります。
まあ人生の転機として挙げられたエピソードです。
人生の転機なんて変わったことが大事で、きっかけなんて何でもいいんでしょうから、あんまりこだわらなくてもいいのかもしれませんけど。
いずれにしろ、光圀が最初というか、このエピソードが最初というのは象徴的でした。
本書がどんな本かってところでの象徴ですが。
3 頂点としての本居宣長
本書の特徴は、思想ではなく思想家に焦点を当ててることです。
つまり、どんな階層の出身で、どんな仕事をして、どのくらい豊かあるいは貧しかったか。
そういうことから述べています。
本来、思想とは関係ないことです。
まあ、思想をより深く知るには思想家を知ることも大切なので、必要なくはないでしょうが、どうでしょう。
ちなみに本居宣長は商人になれなくて医師になった国学好きとのことです。
まあ、どうでもいいっていえばどうでもいい話ではあります。
さて、国学です。
これ儒学や仏教と対抗させようとするから、というか研究者が自分のやってることの価値を上げるために敢えてやってたのかもしれませんが、本来思想を語るものではないはずです。
古典文学とか古文書学とか、そんな感じです。
万葉仮名は江戸時代のはもう読めなくなっていて、なんて書いてあるのかすら分からない。
それを解読していったのが、国学です。
ちなみに万葉集のうたは、今でも諸説あって読めてないものもあるとのことですが。
国学そのものは、実証的だし大変な労力だし尊敬に値する仕事です。
ですが、研究対象の万葉集や古事記に哲学や思想があるわけではなし。
大和心が山桜だとしても、それは思想じゃないし。
もしあるとしたら、日本はすごい、えらい!っていう考えくらいでしょう。
まあ空虚ですね。
それでも、本書における本居宣長は江戸思想の頂点に位置しています。
いや、頂点であるとは書いてないんですが、なんか真打ち登場みたいな立ち位置にいます。
その理由は、実証的で論理的な研究方法が極まったから。
う~ん、どうでしょう。
方法論と思想内容は別と思いますが。
いや、古典文学研究者、国文学者として本居宣長はすばらしいです。
でもねえ、思想家なのかと言われれば、どうかな。
先に挙げた史記の方が、歴史書でありながら思想性が強いと思いますけど。
4 総評
★☆☆☆☆
一つです。
面白くもないし、ぐっすり眠れるし。
たぶん、思想でいったら鎌倉仏教の方がよっぽどおもしろいと思います。
そもそも、儒学マイナーチェンジの朱子学とかがつまんないし、それに対抗する国学なんてカテゴリー錯誤してるし、大仏非仏説とか否定はいいけど新しい思想生み出してないし。
題材がつまらんのに、唱えた人の魅力に訴えておもしろくしようしても、それは限界があるでしょう。
まあ、本の題名の「面白くて眠れなくなる」はシリーズもののまくららしいので、筆者がつけたってわけではないでしょうが、それにしても羊頭狗肉な題名です。
諸子百家みたいに自分の思想を述べようとしていたわけではなく、先学を勉強してついでに何かを述べた人ばっかりなので、おもしろさが薄まるのは仕方ないかと思いました。
入門書だからいいとも言えない感じですね。
