1 貯蓄から投資へ
2007年初版の本です。
この頃から、貯蓄から投資へという呼び掛けが行われていたのですね。
こういう呼び掛けが新しくないことは驚きです。
昔からこのような呼び掛けが多くあったのでしょう。
なぜ、呼び掛けてきたのでしょうか?
おそらくは、参加者が多くないとゲームにならないからでしょう。
つまりですね。
こういう市場は参加者が多くないと市場として成立しないのです。
そのこと自体はまちがいではありません。
そして、貯蓄から投資へという言葉自体に間違いも正解もありません。
ただの誘いかけです。
問題はその内容ですね。
どのような行動を勧めているかです。
2 預貯金の不利な点
日本人は貯蓄を好むと筆者はいいます。
そうでしょう。
悪いこととは思えません。
また、日本人だけとは思えません。
貯蓄は、安全志向の人にとって当たり前の行動です。
一方、投資はどうなるかわからないもの、情報戦です。
負けたくなければ参加しない。
それが普通の認識です。
投資は損をすることがある。
そして、初心者は損を引き受ける役回りになりがちである。
こう思われていたから、多くの人が参加しなかったのです。
実際、1980年代になるまで、株は堅気がするものではないというのが常識でした。
株屋というのは、背広を着たギャンブル屋と思われていたのです。
そして、貯金をすれば資産は着実に増えていました。
利子が3~5%ぐらいありましたからね。
株で一攫千金する必要はなかったのです。
しかし1999年以後、利子はほぼつかない状態です。
それでも日本はデフレだったので、現金を持っている方が資産防衛になっていました。
買ったものが価値が下がるのですから。
本書はそのデフレの時代に書かれたものです。
それでも、株式投資に比べれば預貯金は不利である。
このように述べています。
株式なら3~5%の収益が望めるが、預貯金はほぼ0%。
事実ですが、それでも株式投資は敷居が高い。
預貯金ほど何も考えずに購入できないからです。
ここをクリアにしなので、多くの人は動かなかったのでしょう。
3 投資信託という選択肢
本書では、預貯金の他に貯蓄型生命保険や住宅ローンも資産形成という点から同じ俎上に載せています。
そして、どれも株式などの投資に比べて不利であると述べています。
しかし、株を本格的に売り買いすることは勧めていません。
1日中、相場を見つめ売買を繰り返すトレーダーに勝つことなどできないからです。
そこで、比較的分散した投資になる投資信託を勧めています。
しかし、貯蓄型生命保険もそうなのですが、投資信託には手数料という問題があります。
利益があってもなくても保有したり売買したりすれば手数料がかかります。
というか、証券会社は手数料が収入の柱なので当然です。
投資信託に疑問の目を向けるには、こういう理由があったのです。
なので著者は、投資信託を選ぶ際に手数料を比較し、安価なものを選ぶことを勧めています。
そうなると、ノーロードという購入手数料のないものや、売買判断があまりいらないインデックスに連動するものが勧められることになります。
これは、投資を勧める現在の論者と同じ結論ですね。
現在では、全世界株やアメリカ株を勧める方が多いですが、その際に為替も関係することを本書は指摘しています。
また、実店舗の証券会社や銀行、郵便局ではなくネット証券を勧めているのも、現在の論者と同じです。
手数料が安いですからね。
現在の投資論者の原点は、この辺りにあるのでしょうか。
あるいは、論理的に考えれば同じ結論になるのかもしれませんね。
4 総評
具体的に勧めている投資商品はやや古いものの、論じている内容は現在でも十分通じるものでした。
筆者が本書を著そうとした理由に、まがいものの入門書が多いということをあげていました。
今となっては、資産倍増や「これを買え」的な投資推薦本はもう少なくなってきたように思います。
ネット上に多いようですが。
そういう意味では、筆者の主張が多くの人に広まってきたといえるでしょう。
本書は、貯蓄はだめというタイトルですが、これは読者を惹きつけるためのキャッチコピーでしょう。
実際は、現金など流動性の高い資産はある程度もっていないと急な対応ができません。
なので、本書もゼロにするというような極論はいっていないのです。
投資に対して消極的な日本人が振り向いてくれるようにしたのでしょう。
本書は、投資の考え方を知るにはよい本だと思います。
それに、短時間で読み切れるのも魅力ですね。